社会

「親に育てられなかった子ども」が児童養護施設を出るとき、立ちはだかる社会の壁

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――親の力に頼れないと、どのようなことが問題になるのでしょうか。

植村:いざというときに、頼る先がありません。一般的には、お金がないときに、少し家族から融通してもらったり、家賃が払えないほど困窮したときも実家に身を寄せることができるでしょう。もし、進学や就職で失敗しても、実家で1カ月くらい休めば、「また頑張ろう」と前向きになることもできるますよね。

でも、施設を出た子どもたちには、逃げる場所がないのです。病気になったり、仕事を失ったり、詐欺や脅迫などの犯罪に巻き込まれてしまうと、すぐに大変な事態に追い込まれてしまいます。

そのときに、かくまってくれたり、相談できる大人の存在があればいいのですが、彼らは大人とのネットワークをつくる力が弱い傾向にあります。というのも、6割の子に被虐待経験があり、大人をうまく頼ることが苦手なのです。

施設の職員さんは一生懸命育ててくれますが、自分だけの親ではない。自分の親だったら多少迷惑をかけられますが、施設に顔を出しても、職員さんがほかの子を相手に忙しく働いていることは分かっています。自分だけが職員さんに迷惑をかけるわけにはいかない。だから、一人で抱え込んでしまうのです。

若い彼らが困ったとき、大人との関係は重要です。同世代の友達は、数日家に泊めることはできても、根本的な解決ができるわけではありません。きちんと問題を解決できる力を持っている大人に対して、早めにSOSを出すことができればいいのですが、彼らはそれができないのです。

――「親を頼れない」とのことですが、18歳で施設を出てからの親との関係は、どのようになっていくのでしょうか。

植村:これは、非常に難しい問題ですね……。親の力に「頼れない」だけならまだいいのですが、親が子どもの人生を邪魔することもあります。

18歳で、進学や就職をして、本人は前向きに人生を歩もうとしているのに、ギャンブルに使うためのお金を子どもにたかりにくる親もいます。今までは、施設の中にいたので、周囲の大人がクッションになってくれました。でも、一人で生活すると、自分の親との複雑な関係に正面から向き合わざるをえなくなるのです。厳しい言い方ですが、はたからみると、18歳まで迎えにこなかったわけだから、その子と親がうまくいくことはあまりないでしょう。でも、「今度こそうまくいくのでは」と子どものほうにも期待がある。だから、親にたかられてお金を渡してしまう子もいますし、自分から会いに行く子もいます。でも、欲しい言葉なんてもらえないから、「やっぱり自分は愛されていないんだ。」とまた傷ついてしまう。

せっかく前向きに頑張ろうとしていた子だったのに、親との関係でメンタルがぐらつき、進学をあきらめてしまったケースもあります。育てることはしなかったにも関わらず、関係性は親子のままだと思い込んでいるのかもしれません。親の言う事を聞いて当たり前だと。だから、いつまでも干渉してくる。

――安倍政権では三世代同居を進めていくなど「伝統的家族」への回帰を目指そうとしている動きがあります。今のお話を伺っていると、その「家族」って本当に信用できるのだろうかと疑問に思います。

植村:政策そのものについての是非は分かりませんが、「伝統的家族」へ回帰することは、なんだか時代に逆行しているように見えます。性別や血縁を超えた新たな家族の形を望んでいる人に配慮されていない気がしますし、親子の関係を典型的な形に当てはめてしまうことにならないでしょうか。「子どもは親のもの」という思い込みも、そんなところから生まれそうです。

親、とくに母親が、子どもを愛して育てることが当たり前となっていますよね。この価値観は、親と子を苦しめていると思います。「愛されなかった自分が悪いんだ」と子どもは自分を責めてしまうし、「愛せない自分が悪いんだ。」と親も苦しめることになる。

児童虐待の背景にも、母親の育児ストレスがあります。誰かに相談なんてできっこありません。虐待行為の6割は実の母親によっておこなわれており、思い通りにいかない子育てに悩んでいるケースが多いんです。

親が子どもを育てられないこともあるし、家族は崩壊することがある。その事実から社会は目をそらしている。育てられないなら、社会で育てればいい。なにがなんでも親が育てなければならない価値観は、誰しも自分で自分の首をしめているように思います。「親は子どもを愛し育てる」という思い込みが、それを享受できない子どもを傷つけていると思います。

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