社会

「親に育てられなかった子ども」が児童養護施設を出るとき、立ちはだかる社会の壁

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――児童福祉保護法の改正案が閣議決定され、注目されています。施設にいられる年齢が18歳から20歳に引き上げられるという話もありますが、どのように影響しそうでしょうか。

植村:もともと、延長措置は設けられており、最大で20歳までは施設にいられることになっていました。しかし、実際は施設に余裕がないため、「18歳の5月まで」「19才の8月まで」と子どもの状況をみて施設の裁量で対応していたのです。それが一律で20歳に引き上げられ、予算がついたのは歓迎できることだと思います。

しかし、問題点は、18歳であろうが20歳であろうが、施設を出てしまうと急に支援がなくなってしまうことです。みなさんも自分がそれくらいの年頃だったころを回想してもらえればわかると思うのですが、親や頼れる人が周りにいない状態で自立するのは簡単なことではありません。

施設にいる間は、企業がテーマパークのチケットをたびたびくれるなど、普通の家庭より恵まれている面もあるのかもしれません。今まで与えられてこなかった分、機会を与えるのは、いいことですよね。でも、その支援はいつか打ち切られ、厳しい社会に一人で投げ出されます。施設を出たらこの支援がなくなるのがわかっていても、目の前の子どもの養育に精いっぱいで職員さんは手を打てません。段階的な支援が求められていると思います。

――児童養護施設の子どもたちは、施設を出た後どのような進路を歩むのでしょうか。

植村:専門学校や大学への進学が2割で、8割が就職をします。一般の高校生の進学率は71.2%ですから、かなり低い進学率だといえます。

私たちのアンケートによると、施設の高校生は36.2%が進学を「希望」していますが、「予想進路」を聞くと27.9%に減ります。さらに、学年が上がるにつれて「希望」「予想」ともに、就職と答える生徒が増えていきます。進学できないと諦めているんです。

※自立支援白書2014「退所後の希望進路と予測進路」

※自立支援白書2014「退所後の希望進路と予測進路」

というのも、当然ながら進学するにはお金がかかります。親に頼れない施設の子どもたちは、授業料だけでなく、生活費もすべて自分で稼がなければいけません。「目標がないから、とりあえず進学しよう」なんてかなり贅沢です。しかも、社会経験が浅く、親のサポートが得られない状態で、一人暮らしをしながらの進学になってしまいます。かなり険しい道です。

そのこともあり、施設の職員さんも就職を勧めます。高卒での求人はいまだにあり、高い確率で就職することができます。親だったら「あなたの人生だから、好きにしなさい」と言えます。でも、これは自分が最終的に支えられるから言える言葉なんです。職員さんは、親のように愛情を注ぐことはできますが、最終的に面倒を見れるわけではありません。

実際、施設出身者の中退率は高い傾向にあります。たとえば、進学したのだけど、「家庭が欲しかった」と、妊娠して出産したため学校をやめる子もいます。貸付型の奨学金を借りることもありますが、もし中退してしまうと、その子の手には負債だけが残ってしまいます。進学することは現状ではかなりリスキーだと言えます。

――施設によって、進学状況に差はあるのでしょうか。

植村:かなり違いますね。社会福祉法人とはいえ、施設は小さな中小企業が点在しているようなものです。経営がうまいところも苦手なところもあります。本人が進学を望めばほぼ100パーセント進学させる施設がある一方、大学進学者を一度も出したことのない施設もあります。

施設によって、子どもに接する職員の数にも違いがあります。社会福祉法人は子どもの数によって行政からもらえる予算が決まっているので、人員を増やしたり、職員にとってよりよい職場環境にするには自分たちに予算がないと難しいのです。職員数の余裕は、もちろん子ども一人ひとりへのサポートの厚さにかかわってきます。給付型の奨学金を施設自ら提供するところもあれば、職員さんが毎日精いっぱいで退所後のことまでなかなか手が回らない施設もあります。

子どもたちは、どこの施設に入るのか自分で選んで決められません。それなのに、どの施設に入るかで将来の選択肢の幅が限定されてしまうのです。進学できるかどうかもそうです。本来ならば、どの施設に入っても同じような支援が受けられるようになればいいですよね。施設と施設の差をなくすことも私たちの課題だと思っています。

――ブリッジフォースマイルでは、進学したい子どもたちにどのような支援を届けているのでしょうか。

植村:大学などへの進学者を卒業までサポートするプログラム「カナエール」をおこなっています。高校3年生から進学中の若者を対象にしたもので、スピーチコンテストへの出場を条件に奨学金を給付しています。

――スピーチコンテストですか? それはなぜでしょう。

植村:私たちはロールモデルづくりがしたいからです。「施設にいるからどうせ努力しても無駄」と思ってしまう子もいるんです。進学も多くの子がどんどん諦めてしまいます。活躍されている施設出身の方もいますが、特殊なガッツがある人だったりして、思いのほかロールモデルにはなりません。「あなただからできたんですよね。」と、なりかねない。でも、一緒に悪さして怒られたり、寝食ともにした先輩たちが輝いているのをみると、「頑張れば、自分の生きたいように生きられるかもしれない」と思えますよね。そんな先輩を増やすため、一人でも多く進学、卒業してもらえたらと、資金面と意欲面から応援するためにちょっと変わった仕組みにしました。

それに、施設のことを見たこともなく、一般家庭で育った人たちに話しても「そんな子本当にいるの?」と思われてしまいます。だから、顔の見える会場で、本人たちの口から夢や進学の思いを話してもらいます。子どもたちも、まだまだ偏見や勘違いの多い中で、施設出身者であることをカミングアウトできないまま生活しています。自分たちがどういう存在なのか、自分の口から語ることがほとんどなかったのです。

お涙ちょうだいの会にしたい訳ではないので、大変だった自分の過去を語る子もいれば、淡々としゃべる子もいていい。「かわいそうな子」と言ったほうが支援は集まるかもしれません。でも、支援を集めるために、施設の子を「かわいそうな子」にしていいのか。このあたり、子どもと社会の間に立つ役割としてはいつも悩ましいです。

子どもたちは生まれ育った環境は選べなかった。自分のせいではないのに、チャレンジできない状況に立たされている。周囲が応援して、自分が努力すれば未来を切り拓ける。選択できる。そんな仕組みを、提供できればと思っています。
(聞き手・構成/山本ぽてと

カナエール夢スピーチコンテスト2016

児童養護施設や里親家庭から進学を目指す若者たちによるスピーチコンテスト。

120日間の準備期間、自分と向き合い続けた集大成を体験しにきてください。

チケット代は出場者の奨学金、プログラム費に充てられます。

横浜会場 6月18日(土)神奈川公会堂(神奈川県横浜市)
東京会場 6月25日(土)四谷区民ホール(東京都新宿区)
福岡会場 7月3日(日)黒崎ひびしんホール(福岡県北九州市)
詳細:http://www.canayell.jp/contest/

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