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英語圏の腐女子文化~知られざるスラッシュフィクションの世界

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スラッシュとは?

 「スラッシュ」“slash”というのは「/」のことで、これは親密な関係にあるキャラクターふたりをつなぐ記号です。例えばスラッシュの二次創作において大道のカップルである『スタートレック』のジェームズ・T・カークとスポックは、Kirk/Spockと記述されます。日本では攻め受けの概念を包含できる「×」を使用しますが、英語圏のファンダム専門ウィキであるFanloreを見ると、英語圏でも日本のやおいについては「/」ではなく「x」(「×」は全角で使用できないので、小文字のアルファベットのx)を使う場合があるようです。

 日本語の「カップリング」に相当する語は「ペアリング」“pairing”あるいは「シップ」“ship”などです。「シップ」は「関係」を意味する“relationship”を短くした単語で、これはヘテロセクシャルのカップリングなども含めて非常に広く使われています。オクスフォード英語辞典によると、この意味の名詞として記録に残る最初の用例は1996年のものです。語源は違いますが、綴りが「船」という意味の“ship”と同じなので、それにひっかけた新語も造られています。例えばカップリングについてファンダムでもめごとが起こった場合は 「シップ・ウォー」“ship war”(船の戦い)が発生します。

 スラッシャーが誰と誰をシップにするかということは直観、あるいは天啓といったほうがいいようなセンスに基づいており、見た瞬間にどのキャラクター同士が自分のシップになるか決まることもあります。サッカーファンのことわざで「自分でクラブは選べない。クラブがあなたを選ぶのだ( “You don’t choose the club. The club chooses you.”)」という言い方がありますが、スラッシュもまさにその通りで、自分で誰かと誰かをシップにするというよりは、自分があるシップに選ばれたといったほうが近いだろうと思います。

 シップ・ウォーが発生するのはおそらくこのようにシップが非常に直観的な説明しがたいセンスに基づいているためでしょう。個人的な話で恐縮ですが、私は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を見た瞬間、自分のシップは「ストームパイロット」 ( “Stormpilot”、ポー・ダメロン/フィン)だと思ったのですが、ヘテロのシップでは「レイロ」 (“Reylo”、レイ/カイロ・レン)が一番人気と聞いて「絶対にあり得ない」と思いました(レイロファンの皆さん、ごめんなさい)。「どうしてあり得ないのか」を説明するのは大変難しく、また海戦の原因になるのでやめておきますが、とにかくシップ選びにはかなり強い直観が働くのです。

 二次創作としてのスラッシュの認知度が高まったのは、一般に1970年代のSFファンダムでのことだったと考えられています。笠間千浪編『古典BL小説集』(平凡社、2015)などからわかるように、女性作家による男性同性愛の物語はもっと古くからありました。しかしながらファンダムで目に見えるような動きとなるにあたっては『スタートレック』や、BBCで70年代末に放送されていたSF『ブレイクス7』(Blake’s 7)の人気が引き金になりました。

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