プリンセス幻想をぶっ壊す! 世界を変えるマイノリティを描く『ゲーム・オブ・スローンズ』

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『ゲーム・オブ・スローンズ』公式サイトより

『ゲーム・オブ・スローンズ』公式サイトより

gleeが私たちに教えてくれたこと』には多くの反響を頂いた。その中で最も嬉しかったのが「今までgleeを見たことがなかったけど見たくなった」という感想だった。その一方で、「何も考えず、誰かに守られて生きていきたいって女の子だっているでしょう、それが差別?」「勉強ができない女の子は死ねというのか」といった感想も見られた。『glee』におけるクィンの波乱万丈な出来事の数々は女性の人生における苦難を濃縮したものであり、「自分の頭で考えず、誰かに頼って生きて」いけるなんて人はこの世にはいない、だから自分の意志で人生を切り開けというメッセージが示されていることを残念ながら理解していただけなかったようだ。

そう、誰もが人生においては自分の置かれた境遇や巡りくる運命と闘わなければならない。ただ、女の闘い方は一つではない、ということを示唆してくれる海外ドラマがある。それが『ゲーム・オブ・スローンズ』だ。

家父長制・男尊女卑・優生思想

全世界で熱狂的な人気を集めているファンタジー長編『ゲーム・オブ・スローンズ』は、ジョージ・R・R・マーティン著『氷と炎の歌』シリーズを原作にし、世界中に居る熱狂的なファンの期待を裏切ることなく、映像化に成功した米国HBO製作の傑作長編シリーズである。

物語は王位を巡る覇権争いがなされる英国の中世時代を模した戦乱の世を舞台にし、シェイクスピア劇や実際の英国史を下敷きにしながらも、今まさにわれわれが現代の社会で抱えている問題が浮き彫りにされる革新的作品である。巨大な予算が投じられた本格的な海外ロケや性と暴力描写の過激なHBOならではの展開が注目されがちであるが、実は今作が“マイノリティの物語”であることは多くの人に知られていないところであろう。

ドラマの中心となる3人の人物は全てマイノリティである。凄腕の剣術の持ち主であるジョン・スノウは、名門スターク家に“落とし子(非嫡出子)”として産まれ、その出自ゆえに周囲から疎んじられ自らのアイデンティティを形成できずにいる。ダナーリス・ターガリエンは、かつて統治者であったターガリエン家の栄華を取り戻そうと躍起になる冷酷な兄の“道具”とされ、身売り同然に会ったこともないドスラキ族の長と結婚させられた。ずば抜けて聡明かつ慈悲ある心の持ち主で政治家の才をもつティリオン・ラニスターは、武勲を誇り実質的に王国政府を牛耳っているラニスター家に生まれたにもかかわらず、小人症という身体的障害を抱えるゆえに蔑まれ周囲からその能力や人柄の素晴らしさを理解されない。

彼らはそれぞれに、個よりも家を重んじる「家父長制」、女性を人間としてみなさない「男尊女卑思想」、身体、精神の標準的能力を満たさない人間を排除する「優生思想」の犠牲者である。これらは現代の日本社会に無関係の問題ではない。家族が要介護になると家庭の中でも弱い立場の人間が自分の人生を犠牲にし、その世話をすることを美徳とすること。その他の人生の目的を優先して子供を産まないことを非難する……にもかかわらず結婚を経ずに子供を産むこともまた非難すること。これらは“個人”よりも“家”ひいては“国家”を重んじる家父長制の名残である。女性の生涯賃金が男性の約半分であることが当然とされること。就学や雇用等における障害者の社会参画への機会が実質的にごく限られていること。私たちの社会には多くの差別が厳然として存在し続けている。

個人の生き方は自由だ。しかしいま社会にいるマイノリティたちが、生き延びるために社会に存在する差別に適応している(させられている)ことを根拠に「これは差別ではない」と否認することは、現実を直視することを避けているに過ぎない。

(注:ここから軽く物語の展開に触れています。完全に白紙の状態で今作を見たい方はどうぞシーズン5までをご覧になってからお読みください。)

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