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プリンセス幻想をぶっ壊す! 世界を変えるマイノリティを描く『ゲーム・オブ・スローンズ』

【この記事のキーワード】

サディズムに対抗するひとつの方法

『ゲーム・オブ・スローンズ』における3人の主要人物は、世界に変革をもたらす役割を担わされている。

北の野人から王国を守る防人“ナイツウォッチ”となったジョン・スノウは、否定的な偏見をもっていた野人たちが自分たちと変わらない人間であることを知ったのち、彼らより大きな脅威が生じ始めていることを誰よりも早く察知する。兄の言いなりになり、受動的な人生を送ってきたダナーリスは、次第に女王としてのカリスマ性を帯び始め、ついには自身もかつてそうであったように人権を奪われた奴隷たちの解放を目指す統治者として民衆の強い支持を獲得する。ティリオンは政治家としての確実な手腕を発揮しながらも周囲からの偏見を拭いきれず、自ら王都を飛び出しウェスタロスから海を挟んで遠く離れた新しい世界、自由都市でダナーリスとともに理想社会をつくりあげようとする。“枠外”に生きてきた少数者であるこの3人が新しい世界を作り出す鍵となるのが『ゲーム・オブ・スローンズ』という物語なのだ。

そして、4月25日から世界同時放送され始めたシーズン6では、原作にない新たな展開の気配がある。物語に新要素が加わり始めたのだ。

『ゲーム・オブ・スローンズ』の中心となるのは先に挙げた3人だけではない、視聴者たちの関心は強く北の統治者「スターク家」の行方に置かれている。というのも、誠実で人徳に満ちたエダード・スターク王を初め、王妃キャトリン、そしてその5人の子供たちがシーズン1からあらゆる艱難辛苦をなめ続けているからだ。その中でも長女サンサは、これまでのフィクションで描かれてきたものとは根本的に異なる新しいヒロイン像を投影されている。

お転婆で溌剌、剣術にいそしむ次女のアリアはどちらかというとこの手の物語ではよくあるヒロイン像である。対して美人で女らしく、将来王妃になることを夢見る長女サンサは旧来の物語ではアリアのようなヒロインの引き立て役でしかなかっただろう。しかしこの物語はサンサに独自の成長を遂げさせる。サンサは綺麗で上品なもの、生まれつき高貴なものが好きだった。それらが幸せを与えてくれると思い、王家に嫁ぐ日をずっと待ち望んでいた。アリアのような男性的な振る舞いはせず、世間が女性に求める規範通りに生きようとしているサンサは、『ナルニア国物語』など旧来の物語ではいかにも“愚かな女”として描かれそうなキャラクターだ。

サンサには、彼女を痛めつけることに喜びを覚えるサイコパシックな性格を持つ高貴で美しい許婚ジョフリー王子とその母サーセイによって、スターク家が壊滅的な打撃を与えられるという現実が待っていた。サンサは、孤立無援のなか彼女なりの闘い方で宮廷での生き残りを図る。それはひどく打ちのめされても、けっして痛みを訴える声を上げず、感情表出を抑え、誰にも自分の心のうちを明かさないという闘い方であった。彼女は誰に教えられずとも、喜びの対象や恐怖の根源を他人に知られることが人の弱みとなることを知っていた。お転婆なアリアのように剣は振るえなかったとしても、彼女は剣と同等の強さと賢さをその心に持ち備えていたのだ。誰かに守られて生きていく存在の象徴であるお姫さまを「いやお姫さまも闘うのだ、しかも全然華麗ではない方法で」と描くことで、この物語は世にあるプリンセス幻想を打ち砕く。

英雄へと変貌を遂げたプリンセス

女性にも闘い方があると言うと、強い男性の歓心を得てその庇護のもとに入る姿が連想されるかもしれない。しかし過酷な『ゲーム・オブ・スローンズ』世界ではそんな安易な方法で安寧は決して得られない。権力闘争のさなかでその男性が失墜してしまえば自分もそのとばっちりを受けることは避けられず、時には相手に利用されてしまうことすらある。現実の世界でも同じことだ。誰かに愛されたら全くなんの不安もなく生きていけるほど人生は容易くない。他者の愛が命綱になっている以上、その人間の気持ちに人生が左右される現実は否定できず、そもそも盤石と思われたものも突然の災厄からすべて失われてしまうことはいくらでもあるのだ。

(注:ここから本格的にネタバレに入ります。気になる方はシーズン6第1回をご覧になってからお読みください)

窮地に立ったサンサは見事な変貌を遂げる。囚われの身になり迫害を受け続けたサンサはそこから逃げ出そうとする際、追っ手に迫られ、高くそびえた城壁から飛び降りる。この“Leap of Faith(信念の跳躍)”は何の保証もない未来に勇気をもって身を投じるという「境界」を乗り越える点で、多くの物語において通過儀礼の象徴となる行為である。このような通過儀礼を経て主人公は成長し、英雄となっていくのだ。こうした英雄の象徴的行為を、普通のドラマでは凄腕の剣術を持つジョン・スノウにやらせるところ、『ゲーム・オブ・スローンズ』製作者たちは、全く武器を持たないお姫さまサンサに行わせたのである。

その後サンサは、母である王妃キャトリンにかつて忠誠を誓った真の騎士道精神の持ち主である長身の女騎士ブライエニーに再会し、母と全く同じ文言で彼女に主君の誓いを立てる。ブライエニーの持つ剣“Oath Keeper(誓いを守る者)”はいくつかの人の手を渡り彼女のもとにやってきた、かつてサンサの父エダード王が握っていた剣である。英雄的行為にとどまらず、北の覇者スターク家の主君という役割すらサンサは担わされそうになっている。

アリアを演じるメイジー・ウィリアムズはインタビューで「鉄の玉座(七王国統治者の象徴)に座るべきなのは?」と聞かれ、サンサだと答えたそうである。「誰かに守られて生きていきたい」と思っていた女の子が領民をそして国民を守る主君になる可能性が現れてきたのだ。

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