連載

東大美女、アスリート美女に背負わせる「普通の女の子」願望

【この記事のキーワード】

「恋をして 強くなる」

「愛」のチカラ Road to RIO(『朝日新聞』2016年4月27日)

 東大の女子大生に「世間の女子大生と同じなの?」と問うように、この社会は「特別な女の子」を見つけると、「本当は“普通の女の子”なの」、と模索したり決めつけたりするのが好きである。長いこと、この標的となり続けてきたのが女性アスリートだ。8月5日から開催予定のリオオリンピックに向けた紹介記事が目立つようになってきたが、朝日新聞の特集記事「『愛』のチカラ Road to RIO」には、やはりこうきたか、とうなだれた。見出しには「恋をして 強くなる」、もうそのまんまの内容である。

 台湾の卓球選手との交際が発覚した福原愛は、ブログに「一部の報道に出た台湾人の卓球選手 江宏傑さんとは良いお付き合いをさせていただいております」とだけ書き、その直後に「今の私の一番の目標は、リオオリンピックの個人戦と団体戦でメダルを獲得することです。その為にも、引き続き卓球を一生懸命頑張っていきたいと思います」と続けた。交際については認めますので、恋愛云々の話題はこれっきりにしてくださいね、と牽制する冷静なテキストである。しかし、新聞記事は「恋をして 強くなる」と銘打ち、あらかじめ決めていた方向に持っていくため、「リオ五輪アジア予選には2人とも出場し、そろって外出する場面もあった」と記した。付き合い始めの高校生カップルが放課後にデートしていた事実を咎める学年主任のような記事だが、今件は27歳同士である。

 女性アスリートが恋愛について言及すればするほど、そのまんま本業の成績と結びつけられてしまい、勝ったらば「愛する存在が支えに……」となり、負けたらば「プライベートで賑わせたが……」となる。だからこそ、必要以上の情報や感情を漏らさなかった福原は賢い。しかし、「『愛』のチカラ」でまとめたい側からすれば、素材が足りない。恋をして強くなるアスリートの代表として福原を光らせたい側は、彼女の写真のキャプションに「福原愛。耳にはハートのピアス」と書いた。愕然とする。具体的に語ってくれない彼女の想いを、彼女が耳につけているピアスから抜き取ったのである。これじゃあもう本当に、「そのピアスはなんなの、福原さん!」と廊下で呼び止めて叱りつける学年主任である。

「もし、異性になって全日本メンバーとしてつきあうなら、誰を選ぶ?」

「全日本男女の素顔が見た~い♪」(『月刊バレーボール』日本文化出版/2016年6月号)

 14日から、バレーボールのリオ五輪世界最終予選大会が始まったが、女子バレー選手ほど「普段は普通の女の子」素材が投入されるアスリートはいない。長尺のCMやちょっとした密着取材では必ずオフショットが挟み込まれ、部屋がファンシーグッズに囲まれていれば、意外と女の子っぽい一面も、というまとめあげ方を繰り返す。結婚している選手は、これは実際に去年の夏の大会で紹介テロップに掲げられていた文言だが、「奥様セッター ラストチャンス!」といった扱いを受けてしまう。労働政策研究・研修機構がこの3月に発表した、職場でのセクハラについてのアンケート調査で、セクハラを受けたことがあると答えた女性28.7%のうち、被害内容として最も多かったのが「容姿や年齢、身体的特徴を話題にされた 53.9%」だった。女性のアスリートは、容姿、年齢、身体的特徴を、さも本筋とかかわりがあるかのように引き出され続けている。

 バレーボールの専門雑誌『月刊バレーボール』であろうとも、やっぱりついつい、「全日本男女の素顔が見た~い♪」という特集を組み、「もし、異性になって全日本メンバーとしてつきあうなら、誰を選ぶ?」「両思い♥はダ~レだ?」とやってしまう。V・プレミアリーグのチームを毎号1チーム紹介する連載企画「スタ★メン」では、「何でもベスト3」コーナーが組まれ、「字がキレイな人」「よく寝ている人」「よく食べる人」などがランキングで紹介されている。

 お気づきだとは思うけれど、これは小学校や中学校の卒業アルバムで楽しげに展開されるページそのものである。なかなか年相応ではない。ハートのピアスをしているだけで「恋をして強くなる」と言われてしまう女性アスリートは、「スポーツ以外の日常はとっても純粋で、今時珍しいピュアな女の子」と決めつけられている節がある。シンプルな感想になるけれど、気持ちが悪い。オッサン週刊誌の鉄板企画に美女アスリート特集があるが、あそこにも、着眼のベースに「普通の女の子」願望が潜んでいる気がしてならない。秋元康はそろそろ、女性アスリートのピュアな恋愛をテーマにした楽曲にでも着手しているのではないか。

 東大の女子大生にしろ、五輪をめざすアスリートにしろ、多くの人が「この人は特別な人」と規定する存在を、なんだかとっても幼稚に、実は普通の女の子なんですよ、と操縦する作業が繰り返されている。「本人がそれでもよしとしているんだし」「実際にそれで価値が高まるのだし」という2本立ての弁明を前に、ついつい、生理的に、という言葉を使って跳ね返したくなってしまう。それ、生理的に気持ち悪いんである。

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