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親の経済力による教育格差 生活困窮家庭の大学進学率をあげるために必要な仕組みとは?

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メリットベース奨学金とニーズベース奨学金

そもそも、進学希望の高校生とその両親の多くは、奨学金を受けることを前提に進学を考えています。前述の調査では、学費にあてるために日本学生支援機構などの貸与奨学金(無利子、低利子)を借りるなら、年額でどれくらい借りたいかも尋ねています。「借りる必要はない」は全体の32.6%にとどまり、約7割は何らかの奨学金を必要としています。

学力格差が経済格差に規定されるものであることは事実です。しかし、だからこそ、ただ給付型奨学金があるだけでは、この差は埋まらないのです。

「給付型奨学金」といわれるものには2種類あります。

ひとつは「家計が苦しくお金が必要な人のため」のニーズベースの奨学金。この場合、家計が苦しいことだけが条件なので、学業成績などは判断基準になりません。また、ニーズベース奨学金はアファーマティブアクションの性格も持っています。大学進学や社会進出において生活困窮家庭という不利な条件を補い、彼らが貧困から脱するチャンスを与えるものだからです。

これに近いものとして、アメリカなどでは性的指向、性別、人種・民族にもとづく奨学金もあります。たとえば、 女子の理系大学進学者に対して奨学金を支給すれば、女子高校生とその保護者の進学希望を「短大」「専門」「文系大学」から理系大学にシフトさせることができるでしょう。

もう一つは「学業成績や人物評価(家計が苦しいことが前提の場合も多い)」に基づくメリットベース奨学金です。

日本の大学・専門学校の給付型奨学金の多くがメリットベース奨学金で、給付型奨学金の議論においても、ニーズ奨学金を推進しようという議論はあまり見られません。

しかし、メリットベース奨学金として今回の給付型奨学金アイディアが導入されると、経済格差は縮まるどころか広がる可能性があります。

メリットベース奨学金は格差を広げる

進学希望者の7割が奨学金を希望している中で、もし学業成績、課外活動、人物評価によって奨学金受給者が決定されると、当然、家計は楽ではないけれど、塾に通ったり、課外活動をしたり、本や参考書を買えたり、 家族でちょっと遠出をしたりといった文化的活動をする余裕のある家庭の子どもが選ばれやすくなります。

今回の給付型奨学金をめぐる議論の前提となっているのは「大学教育は経済格差を是正する」という考えだと思いますが、大学進学をしても、大学のレベル、学部・学科、地域などにより、その後の就職のしやすさや賃金には変化があります。そして、大学進学(学部・学科)も含め、進路希望が形成されるプロセスには、家計のほか、性別、学業成績、家庭環境、親の教育レベル、親のジェンダー観なども強く影響します。この状況を考えないまま、メリットベース奨学金のみが導入された場合、本当に奨学金が必要な家庭・子どもに届かない可能性が高まります。

給付型奨学金によって、進学希望の生徒の状況は改善するかもしれませんが、そもそも進学希望が形成されにくい条件を持つ生徒たちにとって、何の変化ももたらさないものです。これでは今回のキャンペーンの主張たる、経済格差による学力格差の改善にはなりません。

今回のキャンペーンでは、「給付型奨学金の財源は休眠預金」ということを主張していますが、もし休眠預金が活用できるなら、現在の日本学生支援機構の貸与奨学金の利子を廃止する方が優先順位が高いように思われます。また、給付型奨学金を導入する場合、メリットベースで受給できる奨学金の金額を傾斜させるなどの工夫が必要です。

「給付型奨学金」のアイディアだけが先行してしまうと、かえって経済格差・学力格差を広げてしまうのではないかと懸念しています。私は給付型奨学金そのものには反対しませんし、むしろ賛成の立場ですが、本当に奨学金を必要としている人たちを掬い上げるシステムとなるよう、これからもっと細やかな議論をしていく必要があると思います。

参考資料
http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/resource/crumphsts.pdf
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/031/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/05/01/1347462_04_1.pdf
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/031/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/08/13/1350841_03.pdf
http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.544.2863&rep=rep1&type=pdf
http://research.upjohn.org/cgi/viewcontent.cgi?article=1016&context=confpapers
http://files.eric.ed.gov/fulltext/ED468845.pdf

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