
(左)安倍晋三公式サイトより、(右)山尾志桜里公式サイトより
5月16日に開かれた衆院予算委員会での安倍晋三首相と山尾志桜里議員(民進党)のやりとりがニュースになりました。
熊本地震発生後、安倍首相が震災対応よりTPPを優先するために衆議院TPP特別委員会での審議を強行したことが批判されていました。今回、山尾議員は、安倍首相は保育士の給与問題よりもTPPの議論を優先している、と指摘し「これでは女性活躍政権ではなく男尊女卑政権だ」と揶揄しました。
安倍首相が山尾議員に対して「議会の運営ということについて、少し勉強して」と全く本質的でない反論をした上、「私は立法府の長」などと、「小学校の社会科をやり直してこい」と言いたくなるような発言をした事実は置いておいて(首相は行政府の長であって、立法府の長は衆議院・参議院の議長です)、どうやら安倍首相にとって保育士の処遇改善は優先度の低い議題であるようです。
TPP法案を閣議決定したのは3月ですが、「保育園落ちた日本死ね」ブログは2月の出来事です。しかも、TPPについてはアメリカの大統領選挙で各候補が内容に留保をつけていることなどもあり、締結できるかどうかさえ雲行きが怪しくなっているものですし、そもそもTPPが国民生活をさらに圧迫するものとなる可能性もあちこちで指摘されています。
今すでに困っている人がいる保育園問題の方がまだ起ってもいないTPPよりも緊急性が高いと安倍首相が認識していたならば、TPPよりも保育園問題を先に閣議決定して、特別委員会が開かれるようにすればよかったのです。しかし、安倍政権はそういうことはしませんでした。首相にとって保育士給与の引き上げも「女性活躍」も、 安倍首相が押し出す「1億総活躍」いうプロパガンダの中の、小さな問題に過ぎず、優先順位としては高くない問題なのでしょう。
男女格差を前提とした保育士の待遇改善
安倍内閣は5月末に保育士処遇の改善案も含めた「一億総活躍プラン」を閣議決定する予定です。その中身というと、たった六千円(現行の役2%)引き上げという方針で、根本的な解決になっていません。 また政府は保育士の賃金上昇目標額を女性労働者の平均賃金額に設定しています。
これに対して山尾議員は「保育士は女性の職業なのか。こういった形で女性の平均を一つの物差しにすることは、今、大きな課題となっている男女の賃金格差そのものを是認する」と指摘しています。そもそも、保育士の給与が低いのは、非正規雇用やパートタイムが約半数もいるためです。また、公務員保育士(公立保育園の正規職員)とそれ以外の保育士の処遇格差も問題です。これは、公務員保育士の処遇を下げろ、というのでは全くありません。公務員保育士と同等の処遇を民間の保育園に務める正規・非正規の保育士が受けられるようにすべきなのです。
この連載でも何度かお話ししてきたように、男女の賃金格差は、女性が非正規雇用に追いやられ、男性中心の経済構造が「女性の仕事」とみなされている家事・育児・介護といったケアの仕事に低評価を下してきたからです。そうした構造的な女性(「女性の仕事」に従事するすべての人)に対する賃金差別、処遇差別に向き合わず、「保育士給与は女性の平均賃金に引き上げる」というのは、女性とケアワークをバカにしています。
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