
林永子さん/二村ヒトシさん
さる5月17日夜、紀伊國屋書店新宿本店8階イベントスペースにて、messyでおなじみのコラムニスト・林永子さんと、『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』がロングセラーとなり、このほど湯山玲子さんとの共著『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』を刊行したAV監督の二村ヒトシさんが、トークイベントを開催した。
林さんの『女の解体』(サイゾー)担当編集者が事前にテーマとして提出したのは<他者への愛と自己愛はどう違うのか><性愛と家族愛の分断が成立するのはなぜか、打開できないのか>の2つだったが、打ち合わせなしぶっつけ本番のトークはどう展開したのか?
<以下、二村ヒトシ×林永子トークイベント『日本人とセックスの解体』(2016年5月17日)より>
なぜ永子は怒っていたのか
林 林永子です。よろしくお願いします。
二村 二村ヒトシです。ね、これマイク使わなきゃいけない? 僕も林さんも声デカそうだからなくても大丈夫なのでは。
林 ああ、じゃあ、そうしましょう。こっちの方がちょっとフレンドリーで、いい感じですよね。
二村 なんか、ただダベッてるみたいでね。林さんとは今から5分くらい前に初めてお目にかかったんですけれども。
林 本当、今日は光栄です、ありがとうございます。せっかくなんで、会わずに打ち合わせも何もせずに、せーのどんでお話するのがスリリングでよろしいのではないかと思いまして、5分前集合でお願いした次第でございます。よろしくお願いいたします。さて、何からお話しましょうか?
二村 皆さん、これ、この二冊はもうお手元にありますでしょうか?
林 (笑)もう皆さんね、多分二村さんのファンの方、たくさんいらっしゃるかと思うんですけども。まずはちょっとじゃあ、本の紹介。
二村 『女の解体』は、messyに書かれていたコラム「ナガコナーバス人間考察」をまとめたものになるんですか?
林 大幅に加筆して構成もいちから変えましたが、元はそうですね。
二村 僕、messyの連載、ときどき、拝見してたんですけど。
林 ありがとうございます。2013年に「産まないセックスで死にたい」っていう内容のコラム(産まないセックスで消えたい女による、日本の愛とセックス分断考)を書いて、それを二村さんがTwitterでRTして下さっていたのを記憶しています。
二村 そうでしたっけね。で、林さんが2013年から2015年にかけてmessyに書いたコラムをこの本に。ただまとめた本ではないんですよね。まとめようと思ったら、やばいと。「書き直さないといけない」と。
林 そうなんですよ。あらためて連載を読み返してみると、私いつも、すごい怒ってて。いわゆる「女ってこうだよね、男ってこうだよね」ってものに対して。私は「女は結婚して子供を産むのが一番幸せだよね」とかっていう型の押しつけが大っ嫌いな子供だったんですよね、子供の頃から。
二村 子供の頃からね。
林 で、全体右にならえって言われたら、みんなが右にならってるところで、一人で正面向いて、『なんで? 納得できるようにきっちり説明しろ』って質問する。理屈も整ってないし、誰が決めたかもわかんないルールになんでこっちが従わなきゃいけないの、ってずっと反抗してきた者なので。で、その部分を、「おかしくない?」って問題提起も含めて、連載では書いてたんですけど。でも自分も別に正しい人間ではないので、読み返すと自分の中の偏見が多いとか矛盾しているとかいろいろ気付いて。読者の方の反応を受けてあとから気付く部分もありましたし。ちょっと、自分の中を整理していかないといけないな、っていう。だから書籍化が決まってから一度、連載100回分の原稿を全部プリントアウトして読み直して。整理し始めたら、そこに書かれている怒りの根源について、「誰かのせいに出来ない、これは全部、自分のせいなんじゃないか」と思い始めた。誰かに憎しみを覚えたとして、こいつふざけんな、って思ったときに、それは「こいつ」が悪いんじゃなくて、私の中のコンプレックスが、その人にミラーリングしてるっていうか。
二村 ミラーリングあるねぇ、あるねぇ。なんか大体、世の中のことに怒ってる人って、自分に怒ってたりするんだよね。
林 そうそうそう。だから書き直すにあたって、結局、人のせいじゃなくて自分のせいだよねっていうことが、ものすごく多くあって。
二村 永子さんご自身も、何かを怒ってるつもりで、自分と戦ってた、っていうことが。
林 書きながらそれがわかっちゃったんですよね。
二村 それって連載のコラムやってる最中だと、いちいち反応があるからまだわかんないけど、まとめようとする作業で『あ、実はやばい』ってわかったりする。突然わかりますよね、それって。
林 そう、理屈が合ってないぞ、っていうところで。だから一回、自分に潜る作業っていうのをしました。実際書いたコラムを全部まとめてですね、一個一個、自分に潜りながら、半年かけて書き直したっていうのが、この本なんですけど(笑)。
二村 すごい、すごいことですよね。いや、本当にそうなんだよね。一回一回の連載だとさ、調子に乗ってさぁ、今週はあいつをやっつけてやる、とか言ってさぁ、いい気になって書いてさぁ。後になってから通して読むと、自分で書いたのに『あ、これ、やばい』って。
林 冷静になってみると、これはちょっと言いがかりじゃないかって思う部分もあって。人をやっつけようと思って戦いを挑むと、絶対こっちがやっつけられるんです。そういう「やっつけてやろう」の観点じゃなくって、何が問題なのかっていう焦点付けを、ちゃんと、自分も含めて、他者との関係性も含めて、冷静にジャッジしてみようっていうことを、延々と繰り返した記録がこちらの本になっております
二村 いや、血みどろの本だと思いますね(笑)。読ませていただきました。面白かったです。
林 ありがとうございます。