吉野朔実が残した他者との戦い方 ひとつになれなかった双子の妹が「いち抜け」する『ジュリエットの卵』

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SNSのない時代の双子が損なったアイデンティティ

 『ジュリエットの卵』は千葉県の美大に入学した「度を外れた美人」飴屋螢と、地元の金沢で母親と暮らす双子の兄、水(ミナト)をめぐる物語です。第1巻の冒頭で、螢と水はそれまで24時間以上離れたことがなく「一生二人で生きていこうと誓った恋人」であること、水を溺愛する母親に対して疎外感を持って生きて来たことが螢の口から語られます。螢と水は二卵性の双子で、性別だけでなく性格も対照的なキャラクターです。しかし見た目はとても似ており、境界が曖昧な二人が持つ濃密で排他的な関係が持つインパクトは物語の序盤で決定的な印象を与えてくれます。続く2話では「螢」は主人公だけでなく母親の名前でもあること、父親とはほとんど接点を持たずに育っていることが明かされます。

 衝撃の告白ではじまる本作なのですが、こうした混み入った事情は、家族との分離の難しさや青年期におけるアイデンティティの獲得の困難といった大きなテーマに、80年代後半の女子大生である螢を通じてアプローチする上で見事な設定のように感じられます。そしてこれらの視点は現在の若者を考えるうえでも重要な示唆をもたらしてくれるものです。

 まず踏まえておきたいのは「進学して家を出る」という行動の社会的背景です。人口学者の清水昌人は大学進学にともなう転出/入(引っ越しをして住民票を出したり入れたりすること)の年次推移について詳細な検討をおこなっています。図1、図2にその内容の一部を示しました。

 図1は大学進学をきっかけに大都市圏に転入/出した人の総数、図2は大都市圏に転入/出した人に全体対して大学進学をきっかけとした移動が占める割合です。この分析は東京や大阪を含む1都2府8県を対象にしたものですが、それでも女性と男性とでは移動の様子がかなり違うことがみえてきます。

 図1にみられるように、大学進学をきっかけに大都市に転入してくる人は1970年代以降一貫して男性に多く、それに比べると女性は少ないという状況が維持されています。これを人口移動の総数との比として表現したものが図2です。1970年代から2000年代にかけて、男性の比率は20程度に維持されています。バブル期には10ポイントほど低下しているのですが、これは男性の人口移動の総数が増えために進学による移動が相対的に減ったとみることができそうです。

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