圧倒的な暴力性に触れたとき、人は「感染」することしかできないのか 『ディストラクション・ベイビーズ』

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(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

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地方都市に住む若者を描いた『ディストラクション・ベイビーズ』。この映画では、内なる暴力性に焦点が当てられています。松山の港町・三津に育った主人公の泰良(柳楽優弥)は、家を出て、市街地にある商店街で、強そうな相手を見つけては襲い掛かる日々を送っていました。そんなある日、公園にいた高校生たちが泰良に襲われます。その中の一人、裕也(菅田将暉)は、最初は襲われている友人を助けることすらできませんでしたが、町中で喧嘩を重ねる泰良を何度も見かけるうちに、彼に妙に惹かれはじめます。裕也は泰良とともにキャバクラで働く那奈(小松菜奈)の乗った送迎車を強奪し、三人で「危険な遊び」に興じていくのでした。

映画を見終わった後は、なんと言っていいかわからない戸惑いと、私の出身地である松山に、柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、池松壮亮、北村匠海、でんでんという、今を時めく俳優たちが集結したことに興奮しました。俳優の誰もが観客をぞくぞくさせるような表情を見せていました。もっと言うと、知人がスタッフにいるから撮影時から話を聞いていたし、エキストラにも知っている顔が何人もいました。こんなすごいキャストがそろった映画が松山で撮られたということは、かなり嬉しいことでもありました。ところが、帰宅していろいろ考えていくと、監督は疑問を投げっぱなしではないか? と思えてきたのです。

実際、インタビューを見ても、俳優たちは、映画の完成試写を見るまで、どんな物語になっているのかわからなかったと言います。柳楽優弥が、自分自身が演じる泰良はなぜ喧嘩をするのかと監督に聞いても、監督は、泰良のセリフである「楽しければええけん」と答えるのみだったそうです。

また監督自身も、「自分は“暴力”に対して、わかりやすい結論は出せない」「倫理的に肯定することはできませんが、“暴力的な衝動”が人間の感情として存在することを否定できない。この題材と真剣に向き合ってきたからこそ、観てくれた人も見終わった時に考えてくれるんじゃないかと期待しています」とリアルサウンドのインタビューで語っています。

確かに、見終わってからこの映画について考えまくったので、監督の意図はこちらにうまく伝わっているということなのかもしれません。それなら、とことんまで、疑問について考えようと思います。

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