風俗嬢は「性加害を引き受ける」仕事ではない
次に、風俗活用の提言は、性風俗産業の現実を捉えていません。一般的に、性風俗は「男性が射精をしに行く場所」というイメージがありますが、男性が完全に射精だけで事足りるのであれば、自慰だけでよいはずです。橋下さんがこのことをどこまで想像できるのか私には分かりかねますが、風俗に来るお客さんは、大なり小なり射精にともなう「人との交流」を求めて性風俗を利用しているのです。
私が元風俗嬢として主張し続けていることは、「性風俗とは性的なサービスを売りにした接客業であり、お客のニーズに合わせたサービスは提供するが、決してお客に体を提供し好きなように弄ばせる仕事ではない」ということです。これは個人型売春女性でも同様だと思います。
サービスを売買する性風俗・あるいは個人型の性労働の世界でも、売り手とのコミュニケーションを無視するお客さんや、性暴力をふるうお客さんがいます(弁護士である橋下さんも当然ご存知のとおり、風俗嬢や個人型売春女性が殺されている事件は、有名なものから無名なもので様々にあります)。殺人事件からストーキング、盗撮、窃盗、乱暴な性行為など、こういったお客さんには、風俗嬢も個人型売春女性も非常に苦しんでいるのであり、性サービス売買の世界でも絶対に受け入れられないのです。
ですから、橋下さんの「風俗を活用せよ」という提言は、あまりにも粗雑であり、性加害の実態をまったく捉えていない「素朴過ぎる放言」にしか過ぎません。橋下さんは、今回の「風俗活用発言」についてはあくまでも140文字内でしか語っておらず、もしかするともっと深いお考えがあるのかもしれません。しかしたった140文字によって、性加害についての誤解や、風俗嬢や個人型売春女性は性加害の防波堤かのような印象は十分に広がってしまうのです。
もし橋下さんが「きれいごとではものごとは解決しない」という主張を今後も繰り返すのであれば、まずはご自身の「性欲が男性の加害行動を規定する」という思い込みについて認識されてはいかがでしょうか。そしてその心理が、日本社会でどれだけ女性に負担をかけ、また性加害の分析と理解を浅いものにしてしまっているのか、どうか批判的な目で見つめてください。「男の性欲」に関する浅い思い込みこそが、日本の女性を殺しているのです。
★1/牧野雅子『刑事司法とジェンダー』(インパクト出版会)の二章「強姦事件における犯行動機の立証」に詳しい。