「強姦罪は男性には適用しない」を改めるために
平成22年の「第3次男女共同参画基本計画」には、「強姦罪の見直し(非親告罪化、性交同意年齢の引上げ、構成 要件の見直し等)など性犯罪に関する罰則の在り方を検討する」こと、そして「男性被害者に対する必要な配慮が図られるよう、相談体制の充実を推進する」ことが記載されています。
これを受け、平成26年秋から始まった「性犯罪の罰則に関する検討会 第一回会議」で、肛門性交等を強姦罪と同様に処罰できるかどうか、また「女性に対するあらゆる暴力」に限らず、強姦罪の被害対象に男性が含まれるかがテーマの一つとして取り上げられました。
さらに、平成27年8月の「性犯罪の罰則に関する検討会 第12回会議」で、これまでの議論が「『性犯罪の罰則に関する検討会』取りまとめ報告書【案】」としてまとめられます。
法制審議会はこの報告書を受けて「刑事法(性犯罪関係)部会」を同年10月に新設します。強姦罪の条文変更案として提出された要綱(骨子)では「性交」という文言が「性交等(相手方の膣内、肛門 内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ、又は自己若しくは第三者の膣内、肛門内若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為をいう。以下同じ。)」となり、「女子」という言葉が削除されました。
現在はこの要綱(骨子)について「刑事法(性犯罪関係)部会」話し合いが行われています。
被害者を「男性」に拡大するのみでよいのか
今年3月25日、「刑事法(性犯罪関係) 部会」は第5回目の会議を終えました。
この5回の「刑事法(性犯罪関係)部会」と、その前段階で行われた12回の「性犯罪の罰則に関する検討会」では、様々な観点から性犯罪について議論がなされました。
強姦罪の被害対象を女性のみに限定しない点については、被害対象に「男性」を加えることではなく「性差をなくす」ことが重要であるという意見も出ています。こうした意見は、例えば、被害の時点では女性戸籍だった者が性別を移行し、男性戸籍となった際、女性として裁判をしなければならないのか、男性として訴えを起こすことが出来るのか。また、男性戸籍で生まれたものが、女性に性別を移行した後被害にあった場合はどうなるのか、という問題を想定していると思われます。女性/男性という括りの中で議論しがちな性犯罪の問題について一石が投じられています。
また、検察官として性犯罪の捜査・公判を取り扱ってきた委員から、男児が被害者の場合は、強制わいせつでしか処罰できないことで苦慮したことがあるという経験が語られたり、大学で刑法を教えている委員から、男女平等を日本国憲法の下で定めている以上、加害者・被害者の性差をなくすことの妥当性などが述べられました。
被害者の対象を女性に限定しない点については反対がありません。5月25日に開かれた第6回審議会で骨子案の内容が確定したのではないかと予想されます。