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皮膚を傷つけ生きていく――自傷は「狂言」で、取るに足らないことなのか

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カッターナイフにも裏切られる

――よく「自傷している人は、結局は死なない」というようなことを聞きますが、松本先生はどうお考えになりますか。

松本:それは誤りです。最初にお話したように自傷行為は生きるためにやっていることが多く、自殺とは明確に違うものではあります。ですが、データを取ると、自傷行為をしたことが無い人に比べて数百倍も自殺の可能性が高いという報告もあります。

自傷行為は一時的に生き延びるための役には立ちますが、根本的な問題が解決しない限り、繰り返されます。しかも、繰り返すたびにより激しい自傷や強い痛みが必要になるので、どんどんエスカレートしていきますし、その中で事故が生じることもあります。その上、自傷を繰り返していくうちに、今までは耐えられたストレスにも耐えられなくなってきます。切ったらつらいし、切らなきゃなおつらい状況になるのです。

これまで、誰かに相談しても裏切られてきた。でも、カッターナイフは裏切らないと思ってしがみついてきた。それが、カッターナイフにも裏切られるようになってしまった。そんなときに、自殺のリスクが急激に高まります。あっという間に死にたい気持ちに頭が支配されてしまうからです。

先ほど、自傷は「自殺以外の意図」があると言いましたが、小学生が行う自傷の場合は本気で死のうとしている場合があります。子どもは大きな病気やケガをしたことがないので、どのくらい切ったら死ぬのかよくわかっていません。人間は10代の半ばまで、2~3割が「人は死んだら生まれ変わってくる」と信じているそうです。したがって、行き詰ったら一回死んで生きなおせばいいとファンタジーのような考えを抱く子がいてもおかしくはありません。

その中で、「この程度では死なないんだ」ともっと危険な方法で自分の身体を傷つける子も出てきますし、切ったら死にたい気持ちが収まったと自傷を繰り返す子も出てきます。どちらにせよ、自殺のリスクが高いことには間違いないでしょうね。

伴走することが力になる

――自傷をする人には、どのような治療法があるのでしょうか。困っていること根本を解決するのですか。それとも、自傷以外のストレス解消方法を見つけるのでしょうか。

松本:両方ですね。困っていることが直ちにわかれば、対処することができます。しかし、なにに困っているのか本人が言わない、そもそも把握さえできていないことが多いです。自傷する人は、皮膚だけではなく、辛い出来事や感情の記憶も切っているんです。

ですので、原因がわかるまで、「じゃあ、切りたくなる前にこういうことをやってみよう」と自傷以外の置き換えを提案し、時間稼ぎをすることがあります。しかし、辛い状況が続いているならば、それだけでは止まりません。かと言って、「止まらなくてダメだね」と私たちがあまりに言うと、自分を攻めてしまって、ますます止まらなくなります。

私たちは、いろんな提案をしながら、ちょっとした進歩やそれでもめげずに続けていくことを評価して、本人の自尊心を高める努力をします。「この人は否定せずに私のいいところを引き出してくれる」という体験が本人に蓄積されると、少しずつなにがつらいのか言ってくれるようになるのです。そうすると、様々な支援資源にもつなげやすくなりますし、置換スキルも向上していきます。

――置き換えの提案は具体的にどのようなものなのですか?

松本:よくあるのは、冷たい氷を握るものです。冷たさを伝える神経と痛みを伝える神経が一緒なので、ぎゅっと握ると区別がつかない。ただ、私も患者さんに試したことがありますが、あまり評判が良くないですね(笑)。

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