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皮膚を傷つけ生きていく――自傷は「狂言」で、取るに足らないことなのか

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――氷を準備しないといけませんからね。

松本:ええ、外出先で困りますよね。釣り人のようにアイスボックス持ち歩くわけにはいきませんし。他にも、ぬいぐるみを殴るとか、手にはめた輪ゴムをはじく方法もあります。でも、激しい対処法はエスカレートして興奮してしまうこともあるので、気持ちを落ち着かせるような深呼吸やマインドフルネスのようなエクササイズを提案することもあります。これも難しくて、自傷したくなるときに深呼吸をすると、過呼吸になることがあるのです。ですので、まずは一番落ち着いているときに練習をしてもらって、上手になってきたら、危ないときに試してもらうことが多いです。

また、血を見るとほっとする人もいるので、赤いフェルトペンで腕を塗ってもらうこともあります。絵の中で手首を描き、絵の中で切ってもらう方法も取り入れていますね。ただし、それらはあくまで時間稼ぎです。別の方法をチャレンジしていく中で、医者から評価され、本人が自分の中で自分をコントロールできる感覚を持つことこそが大事なんです。

というのも、自傷する人は自分をコントロールすることが大好きなんですよ。コントロールできなくなって自傷をするのではないんです。いじめられても泣いちゃダメ、感情を出しちゃダメと思って、限界まで我慢していくうちに、皮膚を切ると自分をコントロールできることを発見する。そうして自傷にはまっていくんです。

しかし、自分をコントロールするために自傷しているはずが、次第に「次はいつ切ろう」と自傷にコントロールされている自分に気が付くのです。ですから、「あなたは自分の状況や環境をコントロールできています。しかも前よりも身体にいい方法で」ということを私たちは教える必要があるのです。

いつも、伴走してくれる人との関係性が長く続いていくことが、本人の力になって自傷を手放すきっかけになると思うんです。治療に特効薬はありません。地道にやっていくことしかないのです。

傷は戦士の証

――治ったあとの傷跡については、どのようにされる方が多いのですか?

松本:傷跡は少し残る方もいて、夏場になると日焼けして白く浮き上がるのが嫌だと言う人もいます。でも個人的には傷をなにがなんでも治すことを勧めていません。というのも、傷がきれいになりかけると再発するんです。「傷が治ると切りたくなる」という子もいます。

私はときどき、傷はおまじないだなぁと思うことがあります。文化人類学などでも、昔は病気が治らないときに、おまじないとして傷をわざとつけ、墨を入れ、痕跡をつくる風習が各地にあったと言われています。痕跡は、昔傷があったのだけれど、いまは癒えて回復しているというメタファーなのかもしれません。

10代のときに切った傷が30代までうっすら残っている。それは、その人が疾風怒涛の戦いをした戦士の証で、いま死なずにいるのは、戦いに勝ったということです。その事実を誇らしく思っていいのではないかと私は思いますね。(後編に続く
(聞き手・構成/山本ぽてと

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