「自傷する女性を救うのは異性ではない」。精神科医師の実感

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自傷と女友達

――ご著書の『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)の中で、女性に対して「同性の友達をつくろう」と書かれていました。どのような意味でしょうか?

松本:診察していて思うのは、「女性を幸せにするのは、異性ではないなぁ」ということです。もちろん、一時的には幸せになれるのかもしれません。自傷する人たちは愛に飢えています。愛にたどりついたら、それを失うことが怖い。そうすると、好きな男性に過剰適応してしまう。自分の本音を言わず、相手の言いなりになる。男性はだんだんと調子に乗ってきてさらに束縛しようとする。そのうち、相手の顔色をみながら意見を言うようになり、その蓄積を自傷で補うようになってきます。自傷を見ると男の方も「なにをやっているんだ」と怒り、自傷をめぐる争いになってくる。そういう子たちは男性に対する怒りもたまってくると、悪気もなく浮気をしたりして、どんどん追い詰められてしまい、気が付くとDVのような関係になっていきます。

そんな状況から早く抜け出せる子の特徴は、同性の友達が多いことです。「あの男、やばいよ、DVじゃん」と言ってくれる。でも、自傷している子の特徴は、同性の友達はいないけれど、異性の友達は途切れない子が多いことなんですよね。男女で友情は成立するのか――と言うと学級会のテーマみたいですが(笑)、10代、20代では難しいと私自身は思っています。男女だと、支配と被支配の関係に絡めとられることが多いんです。

一人だと寂しいから、別れろと言っても別れない。でも、女の子の友達がいっぱいいると「ほかにいい男がいるから」と合コンをセッティングしてくれたりして、DVのような危険な関係から逃げることができる。だから、同性の友達はとても大事だと思います。とはいえ、同性の友達にもいろんな方がいますから、安心できる友達を大事にすることが大事でしょうね。

また、ここでは便宜的に異性愛の男女でお話をしましたが、セクシュアルマイノリティの方は、自傷や自殺のリスクが高いことが知られています。自分の性的な悩みについて親に相談できるかというと難しい。友達にも難しい。ですから、「同性の」というのがどこまで成り立つのか難しいですが、信頼できる友人や大人を見つけて話してほしいと思います。セクシュアルマイノリティが気軽にカミングアウトできるような多様性のある環境が、自傷を減らすきっかけになると思いますね。

というのも、自傷は社会が必要以上に人との競争を強いたり、多様性を認めなかったりすることで出る病だと思うんです。自傷する人と話していると、いつも人との比較にとらわれています。「あいつの方がかわいい」「痩せている」「頭がいい」など、いつも人と比べている話ばかりです。きれいごとになってしまいますが、「みんな違ってみんないい」と基本的に思える社会にならないかなと思っていますね。
(聞き手・構成/山本ぽてと

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