
「女ひとり、家を買う。」Photo by Amanda B from Flickr
賃貸派、持ち家派などと派閥を分けて、「どちらがお得か」をジャッジする議論には終わりがありません。それだけこの選択はむずかしく、人によっても状況によっても、ベストな選択肢が変わってくるのでしょう。実際に住宅購入をされた方の体験談は、リアルな現状を知る貴重な資料ですが、一方で「では自分はどうするべきか」と考え込んでしまうこともあるのではないでしょうか。
そこで今回は番外編として、多くのひとり暮らしの方の住宅相談に乗っている不動産コンサルタント、「赤門ホームコンサル」の高橋英俊さんにお話をうかがいます。不動産業界において現代はどういう時代なのか? また、そのなかで我々はどうするべきなのか? 取材をするなかで私自身が抱いた疑問を、ぶつけてみました。
【高橋英俊さん プロフィール】
不動産仲介、不動産コンサルティング業、高齢者住宅紹介を扱う「赤門ホームコンサル」の代表取締役。自身も子どもを持たない夫婦であるため、単身の人々が直面する老後の諸問題に興味を持つように。独身の人、子どもがいない夫婦が老後に困らない社会を目指して、その仕組みづくりに奮闘している。宅地建物取士、行政書士、社会福祉士・福祉住環境コーディネーター、住宅ローンアドバイザー。共著に『知っておきたい家と土地』(石原豊昭監修・高橋英俊、真田親義 他 執筆・自由国民社)。「日経ウーマン」「アエラ」など、メディア掲載多数。
賃貸暮らしは年をとるほど困難に…
――不動産の相談に来る女性は、どの年代の方が多いのですか?
高橋「30~50代の幅広い年齢層の女性から相談が寄せられます。私のところに来る方は、すでに具体的に購入を検討している方がほとんどですので、『そもそも買う気がない』という方とは接点がないのですが」
――相談者はどんな悩みを抱えているのでしょう。
高橋「みなさん将来的な安心感を求めて、住宅購入を検討されます。ところがいざ買うとなると、買える物件と理想にギャップがある場合が多いのです。とはいえ私が相談に乗った方では、不動産購入に踏み切って後悔したという話は聞きませんね。もちろんローンが支払えなくなって競売になったというような例もありません」
――高橋さんは、シングルの女性も住宅購入をしたほうがいいと推奨するお立場ですね。
高橋「もちろん住宅購入をしなくてもよい人もいます。実家が自分のものになる予定であったり、潤沢な資金を老後に残せる見込みがあったりすれば、特に購入する必要はないでしょう。でも老後に多少なりとも不安を感じるのならば、賃貸ではない自分の住まいを持っていた方が安心ですね。私は高齢者のコンサルティングも受けていますが、賃貸住まいのご老人が困難に直面する事例が多いのです。たとえば病院に入院をしているあいだに賃貸の更新を打ち切られたというケースや、生活保護になってしまったけれど、入れる住宅がないというケースなど。基本的に、賃貸の家主は高齢者を嫌いますから、年齢が上がるほど賃貸暮らしは困難になっていきますね」
――やはり購入に踏み切る最大の理由は、老後の問題なんですね。年をとると部屋が借りにくくなるとはよく聞きますが、実際そういうケースがあるとは。でも今後は少子化が進みますし、そういった問題は解消されていくのではないでしょうか。高齢者人口が多くなれば、賃貸オーナーも「老人には貸さない」などと言えなくなるような気がします。
高橋「現状の制度のままでは、借りにくさは変わらないでしょう。自然死であっても発見に何週間もかかった場合などは、次の借り手に告知することになっています。そうなると、次に貸すときの家賃が下がってしまう。ですから、家主にとって非常に損になるのです」
自殺、殺人などの事故があった物件のことを不動産業界では、「心理的瑕疵(かし、=欠点の意味)物件」といいます。いわゆる事故物件ですね。その場合は告知義務があって、不動産業者は契約前に買主や借主にきちんと説明しなければなりません。自然死の場合は法的な義務はないのですが、長期間放置された場合などは心理的瑕疵に準ずるとして、告知することが多いとのこと。ちなみに私が調べたところによると、心理的瑕疵物件の価格は自然死が通常の90%、殺人が通常の70~80%、火事が通常の50~70%が目安になるそうです。