今年の3月に執筆した記事「エマ・ワトソンのフェミニスト・ブッククラブへようこそ! 広がりを見せるフェミニズムを語る熱い波」では、2014年頃からアメリカのメディアやポップカルチャーの世界で「フェミニズム」が盛り上がりをみせている現象についてお伝えした。今回の記事はその続編として、この現象に対する批判的な論評について紹介してみようと思う。
この5月に『We Were Feminists Once: From Riot Grrrl to CoverGirl®, the Buying and Selling of a Political Movement』という本がアメリカで出版された。著者は、作家・編集者で「ポップカルチャーへのフェミニストの応答」を謳う雑誌・メディア『Bitch』の創立者の一人であるアンディ・ゼイスラー(Andi Zeisler)である。同書は既に米英の複数のメディアに書評や、書籍からの抜粋記事、著者インタビューなどが掲載され、話題となっている。
ゼイスラーの議論は、「フェミニズム」という語が「クール」になったという観察から始まる。フェミニズムの語は、80年代に始まるフェミニズムに対するバックラッシュの中で、「禁句」あるいは「罵りの言葉」(F-word)となっていく。フェミニズムと結びつけられること、フェミニストと評されることは、長らくネガティブなレッテルであった。これは、日本でもフェミニズムやウーマンリブに対する否定的なイメージ、ステレオタイプが広められてきたことからも想像できるだろう。それが今、欧米ではセレブたちが次々にフェミニストを自称し、フェミニズムを語り、メディアがそれを騒がしく(だが肯定的に)取り上げる事態になっているのだ。
フェミニズムがメインストリームの世界でブレイクしたのは2014年である。この年、エマ・ワトソン、ビヨンセ、テイラー・スイフトのような、ポップカルチャーにおけるスターの中のスターたちが自らフェミニストであると宣言し、Verizon、Always、Panteneといった企業・ブランドが、フェミニスト的テーマを中心に据えて、商品(通信サービス、生理用品、シャンプー)の広告を制作し始めた。そうして、アメリカのメディアやポップカルチャーの領域で、皆がフェミニズムを語りたがるようになる。この波=「トレンド」は、2016年の現在も続いている。