
左『愛のことはもう仕方ない』/右『かなわない』
messyにて連載した枡野浩一さんの小説『神様がくれたインポ』が、このたび書籍化の運びとなりました。書籍タイトルは『愛のことはもう仕方ない』。同名の書き下ろし短編を加えたボリュームある一冊です。この刊行を記念して、枡野浩一連続トークイベントを開催。
6月25日のトークイベントゲストは、『かなわない』(タバブックス)を今年2月に出版し、大きなムーヴメントを巻き起こしている写真家・作家の植本一子さんです。本稿では特別に、イベントに向けて枡野さんと植本さんがかわしている往復書簡(メール)を公開いたします。
<※本稿は2016年6月23日にmessyに掲載されたものです>
1【枡野浩一 → 植本一子】
植本一子様
はじめまして。
歌人の枡野浩一と申します。
『かなわない』、
並々ならぬ興味を持って拝読しました。
最初は正直つらい読書でした。
元妻との、
わずか二年程度の結婚生活をいちいち連想し、
たえずそれと比較しながら読み進んだからです。
吉祥寺のブックス・ルーエで、
『かなわない的読本』
【※書店配布のフリーペーパー】
をみて興味を持ちました。
「植本一子が選ぶ22冊!」の中に、
『西荻夫婦』が挙げられています。
やまだないとさんとは交流が深かったので、
あの漫画の中には、
幸福だったころの私の家族が、
(美しい絵で美化されて)描かれています。
当時、
妻はそのページを拡大コピーし、
額にいれて飾っていました。
その額は私が別居期間中、
わざとではなく割ってしまいました。
あまりにもきれいに、
「演出効果として割ったガラス」
みたいな割れ方をしたので
スナップ写真に撮ろうかと一瞬思い、
「こんなこと面白がってるようだから
離婚を申し立てられるんだ」
と自分を戒めました。
私は離婚のことを
何冊もの本に書いてきて、
さすがに今回で最後にしようと決意し、
『愛のことはもう仕方ない』
という一冊をつくりました。
が、
植本さんの本を読んでいたら、
「書かなかったこと」が次々と思いだされて、
「どうして書かなかったんだろう」
「どうしてわすれていたんだろう」
と戦慄してしまいました。
植本さんが拙著に、
少しでも興味を持っていただけるものなのか、
ちょっと自信がありません。
嫌われるような気もします。
本の中に、
知人友人や、
よく知っている場所をみつけました。
長いつきあいの九龍ジョーさん。
イベントで共演した末井昭さん。
ニコニコ動画番組を一緒にやっている二村ヒトシさん。
『なぜあなたは「愛してくれないひと」を好きになるのか』は、
文庫化のさいに書名を変えるよう強くすすめました。
文庫版の最後に私の名前もクレジットされています。
お金がないときに
阿佐ヶ谷のコンコ堂に秘蔵本を売って、
お祝いのワインを買ったこともあります。
結婚時代を含めて吉祥寺に十年住み、
いまは阿佐ヶ谷在住です。
下北沢は演劇をみるためによく行きます。
覚えていないけれども、
どこかのパーティなどで、
お目にかかったことはあるのかもしれません。
もし、ご縁がありましたら、
一度、お話させていただけませんか。
私同様熱心に『かなわない』を読み、
それ以外の関連書籍もすぐさま読んだという
ルポライターの藤井良樹さんが、
その場に立ち会って記事にしてくださる予定です。
残念ながらご縁がなかった場合も、
元妻である漫画家の南Q太さんが、
植本一子さんの本を
読むといいのにと心から祈っています。
枡野浩一
2016年5月31日