「お母さん、実は自分、男なんだ」ある日、娘がそう言いました。親であるあなたらどうしますか。
A :動揺する。
B:「産まなきゃよかった!」と罵る。
C:「気のせいじゃない?」と聞かなかったことにする。
D:LGBTフレンドリーだし、知識も十分にあるので、すぐに受け入れ、味方になる。
Dをすぐ選べるのが理想ですが、いざとなると大きなショックを受けるかもしれません。また「知識も十分にある」と思っていても、その知識が誤っている可能性だってあります。
トランスジェンダー当事者(FtM:女性から男性へのトランスジェンダー)としての自身の経験から、10代の子どもの支援に関わってきた遠藤まめたさんは、「もし、カミングアウトの瞬間に子どものことを受け止められなくても、長い時間をかけて関係性は変わっていくもの」と言います。
『先生と親のためのLGBTガイド: もしあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版)の出版を記念して、「もし子どもにカミングアウトされたら」をテーマにお話を伺いました。
あなたはLGBTフレンドリー?
――本の中では「LGBTフレンドリー度」チェックがありましたね。私自身、取材などを何度もしているので多少の自信はあったのですが、ドキっとする項目がいくつかありました。
遠藤:ここでは、「子どもとはよく雑談をする」のような、一見すると関係のないことも聞いています。知識の詳しさだけではなく、人が多様であることを認めているか、そういう姿勢が大切だと私は思っているんです。ボーイッシュな女の子や、フェミニンな男の子だって、LGBTではなくとも困っているかもしれません。みなさんもぜひ、やってみてください。
□(1)子どもとはよく雑談をする。
□(2)人生はいろいろだと思っている。
□(3)LGBTという言葉の意味をおおむね知っている。
□(4)「ホモ」「オネエ」「そっち系」などの言葉で笑いをとっていない。
□(5)「大人になったら結婚するものだ」という前提で話をしていない。
□(6)「男(女)なんだから○○だ」という押しつけをしていない。
□(7)同性愛と性同一性障害の違いを説明できる。
□(8)LGBTとカミングアウトしている有名人を5人以上あげられる。
□(9)LGBTの友人知人がいる。
□(10)LGBTの子どもにカミングアウトされたことがある。
チェックが沢山ついていれば、よりLGBTフレンドリーと言えます。これまで、LGBTの子どもたちの声を知ってもらう活動を10年以上続けてきたのですが、講演後などに「そんな子どもうちの学校にはいないよー」とか、「会ったことないなぁ」という反応が多くありました。
ですが、身体の性と心の性が違う「トランスジェンダー」は、国連開発計画の数字では約300人に1人いますし、同性や両性に惹かれる人は、約30人に1人いると言われています。「クラスに1人いる」計算です。
だから、「会ったことない」のではなく、「あなたに言えなかった」というのが正解です。子どもの方も、大人が性別による決めつけをしていたり、LGBTをおとしめる「ホモネタ」を言っていないか観察して、カミングアウトできるかどうか判断しています。
はじめのうちは「学校にいないよー」とか「会ったことないなぁ」と言う人も、何年も講演会で関わっているうちに、「気になる子がいる」とか「周りに言えないことが分かった」と知識を得ることでだんだんと変わっていきました。知識を得ることで、LGBTの子どもたちに、「出会う」ことになるのです。
カミングアウトは一回でおしまいではない
――副題には「もしあなたがカミングアウトされたなら」とありますが、もし、自分の子どもからカミングアウトされたとき、親はどのような姿勢でいたらいいのでしょうか。
遠藤:カミングアウトした当人にとって一番つらいのは「産まなきゃよかった」という言葉でしょうね。ですが、親との関係って長い時間をかけて変わっていくものだと思うんです。
LGBTの親同士が支えあうためのサポートグループがあります。アメリカの「LGBTの家族の会」(PFLAG)のパンフレットには、3つの大切なことが書いてあります。
1つ目に「あなたは一人ではありません」他にも何千人、何百人と仲間がいるということ。
2つ目に「あなたは大切な人です」子どもがLGBTだと知ったとき、びっくりしたり恥ずかしいと思ったかもしれません。子どものことが分からなくなることはつらいでしょう。ネガティブな感情も含めて、打ち明けられたあなたにだって話を聞いてもらう権利があります。
3つ目に「あなたのせいじゃありません」親の育て方が悪いから、子どもがLGBTになったわけではありません。
親もある意味当事者なので、特別な感情があって当たり前です。親だって、子どもを傷つけることは悲しいはずです。カミングアウトした瞬間に、100点満点の反応をしなくても、子どもたちは、親が知ろうとしてくれたり、受け止めようとする姿をちゃんと見ています。カミングアウトは一回しておしまいではありません。時間をかけて分かればいいんです。
LGBTの人は、自分の家族を信用できず、離れている人がすごく多い。でも、カミングアウトされた家族の中には「言ってくれてよかった」と思う人もいます。
もちろん、必ずしも親と分かり合う必要はないと思っています。仲の悪い親子関係の人もいるでしょう。でも、仲の悪い原因がはっきりしたことで、上手くいくこともある。「だから、この子と服を一緒に買いにいくと、ケンカになるんだ」「なかなか実家に帰ってこないんだ」とぶつかっていた原因が理解できるのです。
はじめて母親の口から「LGBT」という言葉を聞いた
――私のLGBTの友人たちに話を聞いた上での実感ですが、カミングアウトの相手に父親よりも母親を選ぶ人が多いですよね。
遠藤:そうですね。統計を取っているわけではありませんが、なぜか、母親に言う人が実感として多いです。母親が一人で抱えることもあります。
日本の「LGBTの家族と友人をつなぐ会」にくるのも母親が多いですね。母親も母親で役割があって、自分の気持ちを言えなくてつらいんです。自分はなんで受け止めてあげられないんだろう? 家でケンカしちゃうんだろう? と。
アメリカの「家族の会」でこんな話があります。ある母親が、トランスジェンダーの子どもとケンカばかりするので、これはマズイと、子どもを連れて親の会に行ってみたら、他の親子はみんな会場で怒鳴り合っていた(笑)。それを見て「うちが一番まともかも」と冷静になれたようです。ぶつかることは、必ずしもダメなことではないから、親は自分を責めないでほしい。
実は、私の家族もそうでした。父親の場合は、職場にトランスジェンダーの人がいたのもあり、「しょうがないよね」と比較的簡単に受け止めていたのですが、大変だったのは母親です。
私が性別の違和感を訴えたとき、母親は「テレビの見すぎでは」と言いました。当時は『3年B組金八先生』(TBS系)の第6シリーズで上戸彩が性同一性障害の生徒を演じ、話題になっていたからです。最初は見たくも知りたくもないという感じで、情報を遮断していましたが、3、4年経っても変わらない私をみて、母もだんだんと受け入れていきました。でも、その間、何度もケンカしましたね。
あるときは、理解を示そうとしすぎて、服を一緒に買いにいったときに「この子はピンクより青が好きなんです」と店員さんに急に話し始めて……。そんな事実はありません(笑)。私は、ピンク好きですし。別に店員さんに言うタイミングでもないのに、母親はいったいどうしたんだって思いましたね。
また、あるときは、新聞記事で中村中さんがカミングアウトした新聞を切り取って「こんな頑張っている人もいるんだから」と渡されることもありました。「受け入れてくれるかな?」と思いきや、こっちからLGBTの話をするとあからさまに動揺する(笑)。
そんなことを続けているうちに、お互いだんだん受け入れてくるのかもしれません。ちなみに、フロリダ銃乱射事件の際、はじめて母親の口から「LGBT」という言葉を聞きました。
――けっこう最近ですね。
遠藤:そうですね。あの事件では、ゲイの息子をかばって撃たれた母親がいました。そのニュースをみたアメリカの「家族の会」の人は「この母親は私だ」と言っていました。「私もトランスジェンダーの息子とバーに行くから」と。あの事件では、家族にカミングアウトしておらず、病院に運ばれてから真実を知った親もいたと聞いています。そのことが意味する悲しみのさらなる深さに一番ショックを受けていたのも、彼女たちでした。疎遠になっている人も多いかもしれませんが、一番の味方になる可能性のある家族をもう少し信じてもいいのかもしれません。
いま、「学校でLGBTについて教えると保護者は嫌がる」というような誤解があります。でも、「家族の会」の人たちに聞くと、「自分も(LGBTのことを)教えてもらわなかったし、子どもも教えてもらわなかったから関係性が難しくなった」と認識しています。当事者だけが知りたいのではなく、知識のなさで誤解が生じてしまうのであれば、周囲の人もみんな無関係ではありません。
ジェンダーから完全に逃れることはまだまだ難しい
――子どもがLGBTかもしれないと思ったときに、できることはありますか?
遠藤:特に小さいお子さんの場合は、型にはめないことも大事だと思います。木登りをしようが、お人形遊びをしようが、LGBTを引き合いに出す以前に、自由にさせたらいい。ある男子児童が「女の子として学校に通いたい」と言い、女子として通学をはじめたときに、その子がワンパクだったので、周囲は「やっぱり男の子」などと動揺したという話があります。でも、女の子だって、いろいろでしょう。いちいち「男? 女? これってLGBT?」と動揺せずに、その子が言っていることに耳を傾けつつ、あれこれ決めないことが一番大切です。子どものうちはセクシュアリティが変わることもありますし、親が「この子は女の子(男の子)としてずっと生きていくにちがいない」などと決めることでもありません。小学生のトランスジェンダーが集まる自助グループに行くと、親たちの心配をよそに、子どもたちは男女の垣根など飛び越えて、のびのびとゴキブリを追いかけて遊んでいます(笑)。
実践するのは難しいかもしれませんが、目の前のひとつひとつに、柔軟に開かれていてほしいです。
私だって、高校生のころには、「男らしさ」に縛られていました。携帯のストラップにぬいぐるみをつけちゃだめだと思っていたし、甘いものを食べるのも怖かった。「男は甘いものは食べない!」と考えていて、浜崎あゆみを聞いたら自分は女子になってしまうと思っていました……実際はそんなことないんですけどね(笑)。
今だって、ベリーショートの髪型にしているのですが、あんまり気に入っていないんです。自分はもっと、中性的なお兄さん路線、理想をいえばニルヴァーナのカート・コバーンみたいな長さで行きたいんですが、男であることを周りから分かりやすくするため髪を短く切っている面はありますね。自分の好き・嫌いではなく、周りから男だと理解されやすい髪型にするほうが便利です。
たぶん、ジェンダーから完全に逃れることはまだまだ難しい。でも、子ども達が少しでも生きやすい社会になるようにしていきたいんです。たぶん、LGBTを許せない人は、男らしさや女らしさという言葉に、自分も傷ついているのでしょう。女が女らしくないことや、男が男らしくないことを、社会は批判しがちです。LGBTだけが自分らしさを追求できるわけがない。みんなが「当たり前」を疑い、作り直していけばいい。
「もしあなたがカミングアウトされたなら」という副題をつけましたが、「○○をしたら、LGBTはみんなハッピー」なんてことはありません。何度もぶつかったり、すれ違ったりしながら、それぞれがゆっくり考えていく問題であると思います。LGBT固有の問題もありますが、ぶっちゃけ、最終的には「人として接してください」と言いたいですね。人は、単に一人ひとり違うんですよ。
(聞き手・構成/山本ぽてと)