中卒・犯罪者の息子、性的暴行を受けているお嬢様…「訳あり」が集まる通信制高校『中卒労働者から始める高校生活』

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『中卒労働者から始める高校生活』(日本文芸社)

『中卒労働者から始める高校生活』(日本文芸社)

中卒の主人公が抱えるコンプレックスと恋愛事情

 こんにちは、さにはにです。今月も漫画を通じてこれからの女性の生き方のヒントを考えていきたいと思います。よろしくお願いします。

 今回ご紹介するのは、佐々木ミノル先生の『中卒労働者から始める高校生活』(日本文芸社)です。ダ・ヴィンチとniconicoによる新しいマンガ賞である「次にくるマンガ大賞」「これから売れてほしいマンガ部門2014年」にもノミネートされるなど近年注目が集まっている本作は、雑誌『コミックヘヴン』(日本文芸社)にて2012年10月から連載されている作品です。

 日本文芸社といえば、天王寺大先生、郷力也先生による『難波金融伝・ミナミの帝王』が掲載されている『週刊漫画ゴラク』が広く知られているところです。『週刊漫画ゴラク』などに掲載されているいわゆる「成人向け漫画」は、社会の暗部に切り込む優れた作品が多いのは確かなのですが、暴力表現や性表現が過剰な場合もあるために「読み手を選ぶよなあ……」という印象があります。

 本作は、わけあって親戚に家を借り二人で暮らしている兄妹の片桐真実(まこと)と真彩(まあや)が通信制高校に進学するところから物語が始まります。家庭の事情から高校に進学せず、中卒で工場勤務をしていた真実ですが、高校受験に失敗した真彩に誘われ同じ通信制高校に通い、さまざまな人間関係を経て成長していきます。

 漫画でよく描かれる全日制ではなく、通信制を舞台としているこの作品では、シングルマザーや「訳あり」のお嬢様、リタイアした高齢者など多様な背景を持つ人物が登場します。また、佐々木ミノル先生ご自身も通信制高校に通学していた経験があるそうで、通信制の生活や心情がリアリティを持って描かれています。作品で取り上げられる劣等感や嫉妬といった心理、登場人物の生活状況はハードなもので、その点は日本文芸社的な作風といえそうです。それにもかかわらずすんなり読み進めることができるのは、佐々木ミノル先生の「萌え絵」的でありながら主体性を感じさせるキャラクター造形や漫画運びの巧みさの効果なのかなと思います。

 真実が中学卒業後、進学せずに働き始めた直接の理由は、母親の事故死にあります。しかしその奥には、「刑務所にいる父親」を「自分の親と認めたくない」という強い意志と「犯罪者の息子である」という劣等感が見え隠れしています。「父親は死んだものと思っている」「妹の学費ぐらいは自分で稼ぎたい」との思いを胸に働く真実には、「学歴とは関係なく職場で信頼されている」という自負があるのですが、根本的に抱いている劣等感は常に本人を脅かしていて、突発的に彼を暴走させてしまいます。

 学歴をバカにされたと同僚と喧嘩をする。「お前のせいで中卒なんだろうが!」と、つい真彩を怒鳴りつけてしまう。そんなすさんだ状況で「この世界はクズばかりで、自分はそれより底辺である」ともがく真実を救済するのが、本作のヒロインである「訳ありのお嬢様」逢澤莉央(りお)です。莉央と真実の関係について考えていく前に、まずは本作の舞台である通信制高校とはどのようなものなのか、統計で確認しておきたいと思います。

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