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中卒・犯罪者の息子、性的暴行を受けているお嬢様…「訳あり」が集まる通信制高校『中卒労働者から始める高校生活』

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統計から読み解く本作のリアリティ

 高等学校には授業の時間帯や方法などにより、主に3つの制度があります。日中に6時間程度の授業を受ける全日制、時間帯を選択した上で1日4時間程度の授業を受ける定時制(昼間働いて夜間の授業を受ける「定時制の高校生」はしばしば話題になります)、そして添削による指導と面接、試験で学習する通信制です。本作の舞台となっているのは、このうちの通信制です。

図1:中学校卒業後の進路 引用元:平成27年度学校教育基本調査より編集部作成 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

図1:中学校卒業後の進路
引用元:平成27年度学校教育基本調査より編集部作成

 図表1は文部科学省による学校基本調査から、中学校卒業後の進路についてまとめたものです。「高等学校の通信制課程(本科)への進学者を除く高等学校等進学率」は、全日制の高校への進学率を示しています。

 1955年、全日制への進学率は51.5%と約半数で、中学校卒業後に働きはじめる者は42%となっています。また、6.8%を占めている定時制課程の多くは夜間に学習する夜間定時制課程だとされています。これらを足し合わせると今から60年ほど前は高校に進学する人と中学校卒業後働く人は約半々で、真実のように高校に進学せずに働く若者は決して珍しくなかったことをデータは示しています。

 1975年になると全日制への進学率は90%に達し、中学校卒業後就職する人の割合は激減していきます。現在では全日制への進学率は96.6%で、通信制や夜間定時制に通学する学生はかなり少ないというのが現状です。こうしてみると、3年遅れて進学したことに加えて、多くが通っている全日制ではなく通信制に進学したことも真実のコンプレックスになっているように思われます。

 こうしたデータと本作と照らし合わせると、作品理解の手助けになるだけでなくデータにも奥行きとリアリティが見えてくるように思います。

 例えば物語のキーマンの一人に「中卒で犯罪者の息子」である真実を二つ返事で採用した勤務先の社長がいます。ある日、「コネで入社してきた大卒の新人」が重用され、学歴コンプレックスを刺激された真実は社内でケンカ沙汰を起こしてしまいます。それから緊張関係が続いていた社長と真実ですが、ある日、事件を起こし警察に連行された真実の身元引受人となったのもこの社長でした。彼の「自分を可哀想がるのをやめろ」「お前を決め付けているのは世間ではない、お前を決め付けているのは自分自身なのだ」という言葉は、真実を深く揺さぶるだけでなく、作品の奥行きを決める決定的な台詞のひとつのように感じられます。また、妙なリアリティと圧倒されるような読後感を読み手に与えてくれます。

図2:中学校卒業後の進路 引用元:平成27年度学校教育基本調査より編集部作成

図2:中学校卒業後の進路
引用元:平成27年度学校教育基本調査より編集部作成

 このリアリティはいったいどこから来ているのでしょうか。社長が過ごしてきた人生は今のところ作中では描かれていないのですが、それを読み解くヒントに年齢設定があるように思います。仮に社長の年齢を59歳とすると(キャラクター造形や工場の規模から考えて、この辺りかなと思います)、1957年生まれですから中学校卒業時は1973年になります。全日制高校への進学率が90%になる寸前は1970年代の前半。高校進学率が上昇する一方で進学せずに働く人もまだまだいた時代です。こうした過渡期において、中学校卒業後すぐに就職し、偏見と戦いながら人生を歩んできたのは社長自身だったのではないでしょうか。戦後の日本社会にみられる学歴や就業経験の変遷ときちんと符号しているように見えるところは、本作の読みどころのひとつといえるでしょう。

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