連載

中卒・犯罪者の息子、性的暴行を受けているお嬢様…「訳あり」が集まる通信制高校『中卒労働者から始める高校生活』

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発見や告発が難しいのが性被害

 本作は、現在6巻まで発売されています。そのうち前半の山場となるのが真実(まこと)のコンプレックスと恋愛事情によって起きたある事件です。これによって真実は警察に連行されてしまうのですが、これまで起こしてきたような無思慮な行動が引き起こした事件とは違ったものです。ヒロインの莉央が抱えている最大の秘密、従兄弟で家庭教師のタクヤから長年受け続けてきた強制わいせつの現場を目撃し、彼女を救済しようと家の窓を突き破り、タクヤに暴力を振るったために連行されたのでした。

 作中で「人種のるつぼ」とされ、「訳あり」の人が集まる通信制高校を選んだ理由について、莉央は「誰にも関わりたくないから」だと説明します。両親から愛され、何不自由なく快活に育ったはずの莉央ですが、自分が受けている性被害を告発するも聞き入れてもらえなかったところから「訳あり」のお嬢様に変容していきます。母親の顔を立てるためにタクヤに諾々と従い、自分自身の感情や他者への信頼をどんどん殺していく。塞ぎこんだ莉央が通信制高校で出会ったのが、「中卒で犯罪者の息子」というコンプレックスと戦う真実でした。

 それではここで、性暴力を受けていた莉央が置かれている状況を、データを踏まえて理解してみましょう。

 性犯罪(強制わいせつ、強姦)事件において被害者と加害者に面識のあるケースが多いことはよく知られています。2015年版の『犯罪白書』によれば性犯罪において被害者が加害者と面識があるケースは全体の3割を占めるとされていて、この20年間で約3倍に増えています。この劇的な増加は、実際に被害件数や顔見知りによる被害が増えているというよりは、捜査方法などが変更されたことによって、これまで泣き寝入りしていた被害者が訴えやすくなったことがあるとされています。また、強制わいせつの女性被害者のうち5割が未成年であることも見逃せない事実です。ただし、『犯罪白書』は警察に届け出たケースだけが対象となっているために性的な被害そのものの全体像を把握することができませんし、中学生や高校生の被害を比較することもできません。

図2:性的な被害の男女差 引用元:日本性教育協会「青少年の性行動全国調査」より著者作成 http://www.jase.faje.or.jp/jigyo/youth.html

図3:性的な被害の男女差
引用元:日本性教育協会「青少年の性行動全国調査」より著者作成

 図表3は、本連載でも時々使用している青少年の性行動調査から、男女別、学校階級別の性的被害についてまとめたものです。「身体をじろじろ見られた」「性的なからかいを受けた」といった性的被害において注目するべきは、一貫して男性より女性の方が被害経験率が高いことでしょう。また、中学生は年齢が低いので、大学生に比べると「経験」が少なくなりがちなのですが、それでも「性的な誘惑を受けた」が8.9%と決して少なくありません(本稿の趣旨とは少しずれますが「電車の中などで身体をさわられた」が大学生女子において3割を超えているのはぜひ押さえておきたい数値です)。

 とはいえこちらも十分なデータではなく、莉央が受けていた性被害に比べると比較的軽めのものが中心となっています(もちろんそれらを軽視していい理由にはなりません)。密室で行われているがゆえに表に出にくく、また被害経験の自認そのものが本人の精神的負担となるのが性的被害の恐ろしさです。窓から飛び込んで莉央を救済した真実の英断は物語の軸となるだけではなく、家の中で起こる性的被害の発見や告発がいかに困難であるかを突きつけているように思えます。

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