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中卒・犯罪者の息子、性的暴行を受けているお嬢様…「訳あり」が集まる通信制高校『中卒労働者から始める高校生活』

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「底辺」でも変わることができる

 誰にも相談できないままに性被害を許容し続けていた莉央を劇的に救済する真実は文字通りヒーローで、躍動感あふれる描写は爽快感があるものです。こうしたわかりやすい「山場」だけではなく、その後の人間関係の変化にも接近しているところに本作の作品性があるように思えます。

 一連の顛末を経て自分自身の劣等感に向き合った真実は、莉央だけではなく他のクラスメイトとも次第に気持ちを通わせることができるようになっていきます。もちろん、仲間や居場所を得たからといって、真実の苦境や莉央の被害経験が軽くなることはありませんが、認識の変容を基軸に状況の変化を描く本作の視点は、これからの私たちの生き方を考える上で示唆に富んでいるように感じられます。

 社会の暗部に切り込む作品には優れたものが多いと冒頭に書きました。真鍋昌平先生による超ヒット作『闇金ウシジマくん』(小学館)や福本伸行先生による大名作『賭博黙示録カイジ』(講談社)など、ギリギリの状況に追い込まれた「底辺」の登場人物が、自分自身で決断して過酷な状況を独力で突破する(あるいは突破できない)という物語は、非正規化が進み不況が長引く現代社会においてある種のリアリティと現実味のある悲壮感を私たちに突きつけています。『ウシジマくん』や『カイジ』に比べたらまだ緩やかかもしれませんが、真実も苦境に立たされています。それは自分が持つ劣等感や暴力被害の経験などが、置かれている状況や過去の選択とないまぜになって自分自身を脅かしてくるというつらさです。真実や莉央をはじめとした登場人物たち(シングルマザー、初老の男性などその他の登場人物も多様な事情を抱えているようです)を通じて、さまざまなつらさを本作はつきつけてきます。そのうえで、「底辺」であっても人を信じることや変わることは可能だという本作の着眼は、これまでの作品と異なる着眼点を示しているだけでなく、それぞれにつらい状況を抱えていきていかざるを得ない私たちの人生にもポジティブな視点を提供してくれるように感じられます。

 こうした作品の特徴を踏まえると、実写で映画にできるのではないかと思えてなりません。登場人物も多彩ですし、登場人物の高校入学で話がはじまるのも楽しいところです。ここはぜひ若くて勢いのある俳優に真実を演じていただきたい……。クールな莉央と妹ポジションの真彩の対比や、個性あふれる脇役のキャスティングを考えるのもいろいろと楽しいところです。ちなみに本編の方は、真実と莉央に続くキャラクターがメインとなったストーリーが紡がれはじめています。こちらも大変魅力的なお話となっていて、今後の展開が期待できそうです。さまざまな可能性が秘められている本作のこれからを楽しみに待ちたいと思います。

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