「トランスジェンダーは正社員になれない」「ゲイの世界ではセックスはあいさつ代わり」はウソです。

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LGBTでも夢は叶えられる

――「トランスジェンダーの人は正社員になれない」というデマもありますよね。

遠藤: LGBTだからと言って、就きたい仕事が完全に制限されることはありません。とはいえ、就職活動は、男女で服装も違ってきます。私自身も慣れないパンプスを履いたこともありました。結局「こんな格好じゃ無理!」と、電車に乗れずに帰ったのですが……(苦笑)。

特にトランスジェンダーの場合、「性別適合手術をして、戸籍や法律上の性別を変えないと就活で受からない」と危機感を煽るような情報がネットであふれています。

「背が小さいと女にモテない」「脱毛しないとダメだ」のように、コンプレックスを煽るような形で、手術することで儲かる人たちが情報を流してしまうんです。一方で「そのままの身体でいいよ」という情報は探してもヒットしません。その結果、「早く手術しないと」と20代の大学生が焦ってしまいます。

しかし、トランスジェンダーの人がみんな性別適合手術をするわけではありません。実際は、戸籍や身体を変えなくても、自分の心の性で働いている人はたくさんいます。

――心の性で生きるために、必ずしも手術が必要ないということですね。

遠藤:そうなんです。性別適合手術について、多くの方が勘違いしています。私の母親も、カミングアウトした直後はケンカをすると、「手術でもなんでも勝手にしたらいいじゃない!」と捨てゼリフのように言っていました。私は手術の予定がないので、「お母さんは何に怒っているんだろう……」と毎回不思議でした(笑)。

手術をするには、経済的・身体的な負担が大きいため、選ばない当事者も多いんです。というのも、保険が使えないので、手術の代金はかなり高額で、何十万、何百万の費用が掛かります。さらに、手術をするわけですから、身体的な負担もかなり大きいものです。

たとえば、FtMの場合、性別適合手術で子宮と卵巣を取ります。それにより、更年期障害が起こるなどのリスクがありますが、子宮と卵巣って、そもそも見えない部分です。純粋に自分の身体が嫌いで、違和感があって手術をするのではなく、今の「性同一性障害特例法」が求める法的な性別変更の要件をクリアするためだけに、手術する人は多いです。

MtF(男性から女性へのトランスジェンダー)の場合、低い声がコンプレックスの人が多いので、声帯の手術をする方がいます。そうすると、声が出なくなってしまう可能性もあります。最近だと芸能人のKABA.ちゃんが声帯手術をしたことが話題になっていましたね。他にも手が大きいことや、背が高いことに悩んでいる人もいる。手が大きい女性もいると思うのですが、これは手術では治せないし、気になりだしたらきりがありません。どこかで折り合いをつけなくてはいけないし、一方で「性同一性障害特例法」が当事者の「あるべき身体」を決めてしまっている部分もある。

私自身も「自分の身体がどうなったらうれしいんだろう」と考えます。答えの出ない難しい問題です。

――先日「「KABA.ちゃん、性別適合手術で女性になれてよかったね」という報道に社会的意義はあるのか」という記事がmessyに掲載されました。そこでは、身体に強い負担をかける手術について、無邪気に「よかったね」と言うことに対する違和感が書かれていました。手術に「よかったね」と言うことで、まるで「理解」しているふりをして、私たちの偏見や制度の歪さを、個人の身体の問題に無理やり押し込めているんだなぁとすごく考えさせられました。

遠藤:現在の法律では、戸籍変更のために性別適合手術を受ける必要があるのも大きな問題です。本来は必要ないと思っていながらも、戸籍変更のために、手術を受ける人がいるのも事実です。戸籍の性別が女同士、男同士だと、仮に「男女」として愛し合っていたとしても、パートナーと結婚することができません。

つまり、コンプレックスを煽る人々がいる上に、法律もその後押しをしている状況です。子どもたちには自分の身体が「間違っている」わけではなく、社会の側に問題があることを分かってほしいですし、周囲の大人も「身体を変えなきゃだめだ」と思い込まないでほしいと思います。

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