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女子教育が世界を救う? 「女子に教育は必要ない」は次世代の子供たちをも不幸にしている

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女性が教育を受けると妊産婦死亡率が改善するのは、次の2つのメカニズムによります。まず、女性が教育を受けると所得が上昇します。すると医療に対して使えるお金が増え、より良い出産前の健康診断(prenatal care)を受けることが出来るようになるでしょう。これに加えて、教育を受けると情報の取捨選択能力が向上して、安全な出産のための知識を深めることが出来ます。このようにして女子教育の拡充が、妊産婦死亡率の低減という国際課題の解決に貢献するわけです。

「妊産婦死亡率の高い途上国だけの話なんじゃないか」とお思いの方もいるかもしれません。確かに日本の妊産婦死亡率は途上国と比べると低いです。しかし、例えば漫画『コウノドリ』(講談社)で描かれているように、日本でもまだ安全な出産のためにベストが尽くされているわけではありません。女子教育拡充などを通じてさらなる取り組みがなされるが必要ではないでしょうか。

もう一つ重要な女性の健康に関連する国際課題は、ジェンダーに基づく暴力(Gender –Based Violence: GBV)です。「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(CEDAW)」は、「子供の権利条約(CRC)」と並んでユニセフの存在意義だと言われています。そして、「女性差別撤廃条約」の中でもジェンダーに基づく暴力に対する取り組みの重要性が近年訴えられています。

ジェンダーに基づく暴力の根源的な発生原因の一つは、社会経済的な格差による男女間での力関係の差にあると考えられています。女子教育は、女性がより良い雇用を得られるようにする働きによって社会経済的な男女格差の解消へと導くだけでなく、女性が交渉能力を身に着け、ジェンダーに基づく暴力を回避することの助けになると言われています。ジェンダーに基づく暴力の問題の解消は、女性が健康に働くことを可能にし、女性の労働生産性を向上させるので、それによる税収の増加分だけ国や社会にとって収益があると考えられています。

女子教育は、子供たちの未来を明るくする!?

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 上の表1は、アメリカの国勢調査を基にした、母親の学歴別の子供の教育や健康水準を示したものです。学歴の高い母親ほど子供の教育・健康水準が高く、女子教育が教育を受けた本人だけでなく、子供たちにも好影響を与えていることが見て取れます。

所得が高くなれば、それだけ子供に使うお金も増やすことができます。また教育を受けたことで身についた高い情報処理能力は、子供への効果的なお金の使い方を考えることも可能にするでしょう。

さらに、教育を受けた女性は、子供に教育を受けることを奨励する傾向が見られます。大学教育を例にしましょう。大学教育には、高度なスキルを習得したり、新たな物を学び取るスキルを身に付けたり(人的資本)、「大卒である」という資格要件をクリアしたり(シグナリング)、大学のゼミやサークルなどでネットワークを構築できたり(社会関係資本)と、数々のメリットがあります。これらは、大学教育を受けていないと実感しづらいところがあるため、大学に通っていない母親は、大卒の母親に比べて大学に行くことを奨励しない傾向が出てくるのです。

また教育を受けた女性は子供の教育の直接的な支援が出来るようにもなるでしょう。途上国では、識字能力がある母親であれば、子供に本の読み聞かせが出来るようになります。日本のような先進国でも、母親の学歴が高ければ高いほど、より難解な問題を子供に教えることが容易になるわけです。

まとめ

女子教育の拡充は、個人が受けるメリット(私的収益率)の高さだけでなく、1)人口爆発を抑制する2)女性特有の健康問題を改善する3)次世代の人的資本投資への波及効果、という3つの社会的収益を持つことを紹介しました。先進国・途上国問わず、女子教育が重要な政治的課題として認識されているのは、社会的収益がそれだけ高いからです。

しかし、日本では政治家が「女子に教育は必要ない」といった趣旨の発言すらしてしまっています。これらは女子教育の私的・社会的収益率が高いという事実を理解できていないだけでなく、国際的な潮流にすら乗り遅れてしまっているわけです。これは、現世代だけでなく、次世代の子供たちにとっても不幸なことではないでしょうか?

最近、欧州でも米国でもふざけているとしか思えない国民投票の結果が続いています。日本はこれらの国よりも財政・外交的に厳しい状況にあります。事実をしっかりと把握し、国際的な潮流にも乗って、女子教育の拡充を推進できるような、そして次世代の子供たちがより幸福に暮らせるような社会を実現してくれると思わせてくれるような政治家に投票することが、いま日本に生きている私たちにとって重要なのではないでしょうか。

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畠山勝太

ミシガン州立大学博士課程在籍、専攻は教育政策・教育経済学。ネパールの教育支援をするNPO法人サルタックの理事も務める。2008年に世界銀行へ入行し、人的資本分野のデータ整備とジェンダー制度政策分析に従事。2011年に国連児童基金へ転職、ジンバブエ事務所・本部(NY)・マラウイ事務所で勤務し、教育政策・計画・調査・統計分野の支援に携わった。東京大学教育学部・神戸大学国際協力研究科(経済学修士)卒、1985年岐阜県生まれ。

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