ホモソーシャルにロマンチックな絆などない『日本で一番悪い奴ら』

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(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

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1992年に暴力団対策法が施行され、その二か月後に公開されたことで注目を浴びた伊丹十三監督の『ミンボーの女』は、世間に「マル暴」という言葉を浸透させるきっかけとなりました。今回取り上げる『日本で一番悪い奴ら』も、こうした時代を中心に描かれています。

綾野剛演じる諸星要一は、柔道の腕を買われ大学卒業後、北海道警察に入ります。強い正義感の持ち主である諸星ですが、最初のうちは、机に向かって報告書を書いたり調書を写したりのうだつのあがらない日々を送っていました。しかし先輩刑事の村井(ピエール瀧)から「刑事は(検挙の)点数が全て。点数を稼ぐには裏社会に飛び込め」とアドバイスされてからは、街で営業マンのように自分の名刺をばらまき、捜査に協力するS(スパイ)を探し始めます。やがて、一人の街のチンピラからのタレこみによって、覚せい剤所持の犯人を強引に逮捕した諸星の元に、暴力団の幹部の黒岩(中村獅童)から会いたいという連絡がくるのでした。

「点数稼ぎ」のために男らしさをまとう

北海道警察に入りたての諸星は、逃走する犯人を追いかけている最中でも律儀にシートベルトをしてしまうほど真面目で純朴な青年でした。一方、「裏社会に飛び込め」と諸星にアドバイスをした村井は、暴力団と見まがうような人物。「点数」のためには、暴力団とも付き合うし、夜はクラブで女性をはべらせ、ビールもウィスキーも一気に飲み干します。そして「公共の安全を守りたい」と語る諸星に対して、「そんなものは人が生まれてくる限り無理」と現実を教えます。

良い意味でも悪い意味でもピュアな諸星は、生まれたての「あひるの赤ちゃん」が初めて見たものを親だと思ってついていくかのように、初めて飲みにつれていってくれた村井のやり方を信じ込み、彼を真似るようになります。そこには捜査手法だけでなく、男とは「呑む、打つ、買う」ものだといった考え方も入っていました(打つは出てきませんが、「点数」を上げることがそれに近いでしょう)。なぜなら、暴力団や街のチンピラに一目置かれるためには、「過剰な男らしさをまとう」というパフォーマンスは不可欠だからです。真面目な諸星は、その日から、「点数」を稼ぎ、男らしさのパフォーマンスにますます磨きをかけはじめます。

その後、村井は淫行で捕まって一線を退くことになります。村井の逮捕後、ススキノの街に出る諸星。その顔には不安が見え隠れしていたし、吸いなれないタバコにむせ返ってもいましたが、ススキノの住人たちから親しげに声をかけられるうちに、自信が見え始め(無理にまとっている感じもありますが)、歩き方もガニマタに変わっていきます。このシーンには期待をかけられると、それに応えてしまう諸星の人の良さと弱さが集約しているように見えました。

こうして、手荒いやり口でどんどん「点数」をあげていった諸星は、1993年に銃器対策課に配属されることになります。

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