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ホモソーシャルにロマンチックな絆などない『日本で一番悪い奴ら』

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計画の失敗とともに崩れゆくホモソーシャルの絆

諸星が銃器対策課に配属された頃、警察庁長官が襲撃されたこともあり、北海道警察は拳銃の検挙に力を入れ始めていました。しかし、拳銃は街を歩いていたら偶然に見つかるようなものではありません。諸星は暴力団から買い取った拳銃を押収する形で、自らの点数を稼ぐようになります。諸星に協力したのは、「諸星と一緒にいたらビッグになれる」と思ったハルシオン中毒でDJの山辺太郎(YOUNG DAIS)と、中古車販売をしているパキスタン人のアクラム・ラシード(植野行雄)、そして暴力団幹部の黒岩でした。

この4人には、家族にも近い絆が生まれ始めます(ちなみに黒岩と諸星は互いに兄弟と呼び合い、山辺は諸星を親父と呼んでいます)。特に港でカニを食べながら、笑ったりふざけたりというシーンは、多くのヤクザ映画に見られる、男同士の絆を育む定番のように見えました。なんでもない日常の出来事が、男同士の絆を深めさせるというアレです。この4人に、北海道警察の面々も加わり、検挙率を上げるという目的の元で奇妙な信頼関係が築き上がっていきます。山辺の結婚式では、次長や部長までもが集い、一種の「ファミリー」を形成するようになるのです。

この映画が画期的だったのは、ほかのホモソーシャルを描いたヤクザ映画とは違い、ホモソーシャルで築いた信頼関係は、本物ではないと描いたところでしょう。北海道警察を巻き込んだ壮大な点数稼ぎは失敗に終わり、諸星も第一線から退くことになると、あれだけ和気あいあいとしていた仲間の間に不協和音が響きはじめ、諸星の前から、ひとり、またひとりと人が去っていきます。そこに、ホモソーシャルのロマンチックな関係性などありませんでした。

もしも諸星にカリスマ性や支配者性などがあれば、周囲の仲間は死ぬまで諸星についていったでしょう。ところが、諸星はあまりにも普通の人間で、人を支配することはできませんでした。本来のこうした映画であれば、単純で無垢でちょっとおバカさんで、なんでもない楽しい時間を過ごした舎弟というのは、アニキのために身を投げ出し、かわいい笑顔を見せて、死んでいくものです(『インファナル・アフェア』でヤン<トニー・レオン>を信じて死んでいくキョン<チャップマン・トー>を思い出してください)。でも、この映画では、そんなホモソーシャルな関係のいいとこどりは許してはくれませんでした。結局、ホモソーシャルの信頼関係など、共通の目的、利害を前にしか成立しなかったのです。

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