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『サザエさん』はもはや国民的アニメではない。昭和のパラレルワールドを楽しめない理由

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 フネとサザエは専業主婦として家庭を守り、食後の食器洗いもふたりでやる。かたや波平やマスオは外で働き、時折一杯やって帰宅し、それを待ってくれていた妻から出された夜食を食べる……。『サザエさん』世界の登場人物は皆がこれを当たり前だと思っている。ここにはバブルもリーマンショックも男女雇用機会均等法も存在しない。不況でフネやサザエが働かなければならない事態にはならないし、波平やマスオも減給やリストラなどない(というか彼らが何の仕事をしているのか正直よくわからない)。サザエもフネも含め、一家は「家族第一」の価値観を貫いているように見える。だからこそ日曜の夜に安心感を得られる(人もいる)のかもしれないが、ゴム跳びや山の日よりもこの昭和の家庭のモデルケースのひとつにすぎない家族像をかたくなに守り続けることに一番の違和感を覚えた。いま改めて見ると、あまりにハッキリした男女の性別役割分業にうんざりする。特にサザエの存在だ。

 マスオを婿養子として迎え、専業主婦として過ごすサザエは嫁姑の諍いにも無縁であり、年の離れた弟と妹たちに未だ口うるさく説教したり怒ったりする。家事は実母のフネと一緒にやっているので負担も軽い。もしサザエが嫁に出ていてマスオの家族と同居しているのであればこう奔放には振る舞えないだろう。むしろ嫁に出ていれば、嫁いびりや、嫁と夫の家族間のぎくしゃくした関係なども発生してきたり、サザエが夫家族を息苦しく感じ、外に働きに出ようと考えたりもするかもしれない。フネがサザエと一緒に家事をやるのはサザエが実の娘だからだ。もしサザエが嫁に行っておりその家族と暮らす話であれば、『サザエさん』に波乱が生まれてリアルになったのかもしれないが、何十年も放送が続く作品には決してならなかっただろう。『サザエさん』一家は“婿養子”スタイルをとることで、大家族における問題が起こらないような設定になっているのである。フネも波平も人間離れした人の良さであり、婿養子イジメも存在しない。

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