女がへりくだっても格差は解消できない
――Eさんとの離婚後、新しい恋人(※先ほど別れ際に軽蔑してしまった、という話に出た男性)が出来たところで本編は終わっています。桜の咲く目黒川で始まった新しい恋。しかし、その男性とも別れたと『あとがき』にありましたが、穏便に別れることができたんですか?
及川 うん、向こうの方が別れたいって言ったから。
――及川さんが彼の媚びにドン引きして、それで別れを切り出したのかと思いました。
及川 ううん、それで、最後の話し合いをしているときに、その顔を見て「あ、もういい、もう帰って」みたいな(笑)。
――切り替えが早いですね(笑)。
及川 やっぱり、付き合っていく中で、相手との「格差」みたいなものが鮮明になってくると、お互いしんどくなるよね。私はもともと料理も掃除も洗濯も好きで、男のお世話をしてあげることは出来るんだけど、これ気遣いなんだよ、男に対する。私の方が付き合う男よりも収入が多くて世間的にも認められていたりすると、男は格差コンプレックスを持ちやすい。だから私は気を遣っていたわけ。なるべく下に。
――普通の女であろうとするってことですか?
及川 うん、だから向こうの言うことに「ハイハイ」って。最初はやってたけど、だんだ地が出てくるからさ、ちょっと苦しくなる。今思えば、離婚後は私もかなり病んでたし気力もなかったから「ハイハイ」と向こうの言うことを聞いてたけど、基本的に住む世界というか、住む星自体が違ってた人なんだと思う。
――その男性も同業の方だったんですか。
及川 物を書く仕事でしたね。それで最後のお別れのとき、媚びるような笑顔を見て、私は「もういいわ」と思った。それで聞いたの。「別れても友達でいたいわけ?」って。その男が「うん」って頷いた。もともと大して親しくもない友達だったのが、何かの拍子で恋に落ちて、だけど友達でいたままの方がよかったんだなぁって感じ。ま、以前のような友達に戻れるとは、私の方も思ってはないけどね。
いくつになっても恋愛は出来る
――交際相手の女性や妻よりも、「上の立場」でいたい、というのは日本だけじゃなく万国共通の男性的なプライドなんでしょうか。Eさんにもあったのか。
及川 あったと思うよ。ただ、人に言わせると私って大変らしいの。恋人や妻になった時、男が大変。なぜかというと、パワーがものすごく強いし、喜怒哀楽が激しいのね。バッと自分の感情をぶつける。でも家庭的というか、ちゃんと家のこととかもするわけよ。それで仕事では社会的だからさ。男とケンカして〆切を飛ばしたことなんかないし。ケンカしてても〆切が迫るとケンカを中断させて書くしね。こういう女って男は扱いが大変らしい。そんな女をEは13年も面倒見てきたんだから3億くらい安いもんだ、って。大変だったと思うよ。
――若さと外国文化ゆえの何かがないとできなかったかもしれないですね。
及川 そう、出来なかったと思う。
――同年代の男性だと体力的な面で及川さんのパートナーは厳しいのかもしれないですね。
及川 かもしれないね。私の理想の男っていうのは天才なの。うん。理想の男は天才なのよ。
――二度言った。
及川 もうそこしか、一点しか見てない、みたいな、あるひとつの分野においての天才。そんな男じゃないと無理だと思うよ。私が暴れていてもスルーできるような男って意味で。私がその天才な男の才能を尊敬できたら、それがいい。