小池百合子氏の「男女平等」は、「努力しない人はいらない社会」に繋がりかねない。

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小池百合子公式サイトより

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前回は東京都知事選挙の主要3候補について記事を書きました。世論調査によれば、今のところ小池百合子候補が最有力とのことです。実際、政策を見ても、他の候補よりは具体的ですし、消去法でいくならば、もっともマシなのは小池氏になるのかもしれません。

しかし、前回も少し書きましたが、彼女は極めて右翼的な保守思想を持っています。例えば小池氏は女性の権利を否定する極右宗教団体「日本会議」を支援する議員で構成される「日本会議国会議員懇談会」の副会長ですし、さらには親の育て方が悪いから子どもが発達障害になるなどというトンデモ科学を主張する「親学」の議員連盟にも所属しています。

その一方で小池氏は、女性の生き方・働き方といった点についてはリベラルに見える考え方を示してきた議員でもあります。

「女性の生き方・働き方についてリベラルな考え方」とは「男女は対等である」と考えているということです。これは「女性も“男性と同じように”頑張ることができる」という考え方にも繋がりかねません。

「女性も男性と同じように頑張れる」と考えることの何が問題なのか、とお思いかもしれません。しかしこのような考え方は、ときに「男女が現実的にいかに不平等に扱われているか」という構造的不平等の問題を過小評価しがちです。

社会には女性を取り巻く「頑張ることができない構造的な問題」が多く存在しています。それを無視して「女性も男性と同じように頑張れる(だから、頑張っていない女性は甘えている)」と考えるのは望ましくありません。「女性の働き方や生き方についてリベラルである」ということは、必ずしも「構造的に対等であるかどうか」という問題を考慮しているということにはならないのです。

「できる女」の限界

構造的に対等である状況とは、「男性も女性も、生まれたときから成長段階まで、すべてのプロセスにおいて差別されることも区別されることもなく、純粋に個人の指向を追求することができる」状況のことです。

男女は生まれる前から区別されています。親も周囲も、胎児が男児なのか女児なのかで、買い揃える服の色も、胎教の指向性も変えてしまいます。さらには「保育園での男女のグッズの色分け」「くん・ちゃんの呼び分け」から始まり、小中学校の頃には「男子の遊び」「女子の遊び」の棲み分けなど、あらゆる面で男女は「区別」され、やがてそれが構造的な不平等につながっていくのです。

学校教育を見るならば「女子は文系、男子は理系」という考えは根強いですし、それはやがて学校の成績や進路選択、職業選択に大きな影響を及ぼし、将来的な収入格差、昇進格差につながります。事実、小学校段階で、すでに女児と男児の「将来の夢の職業」は異なります。そしてこの違いは中高も継続し、大学進学や就職先選びでも「考え方の違い」として維持されます。

生育段階において当たり前のように区別されている男女が、それぞれ異なる将来の希望や人生プランを持つことを許容しているのは、プロセスの不平等を許容しているのと同じです。プロセスの不平等によって、男女の生き方、収入、職業選択に差があるのにもかかわらず、同じ職業や働き方をしている男女だけを比べて「男女は平等だ」と考えるようでは、いつまでたっても「男女は違う生き方、指向性を持っているものだ」という思い込みによる支配は解消せず、「区別」という名の構造的差別がまかり通る社会状況も変わりません。そして小池氏の発言からは、まさにこのような「同じ状況にいる男女が出す結果が公平に評価されるべきだ」という、非常に限定的な男女平等思想の傾向が色濃くにじみ出ています。

小池氏のような「強い女」にとっては当たり前の考え方なのかもしれません。小池氏はほとんどの男性よりもよほど強く、優秀で、政治の世界で戦ってきた人です。それにもかかわらず「女性だから」という理由で政治の世界で差別されてきた彼女の発言からは、男性と男性社会に対する恨み節が垣間見られます。

「私は多くの男性よりも優秀なのに、正当に評価されていない」というのは、できる女ならば誰しも持つ不満かもしれません。しかし、「できる女」が女性全般を語る際の限界は、そもそも多くの女性は「頑張りようがない。そもそも出来る気がしない」状況にあるということに気付けないことが往々にしてある、という点です。

なぜ働く女性の多くが正社員ではなく非正規なのでしょうか? シングルマザーの半数が貧困に苦しんでいるのはなぜなのでしょうか? 彼女たちが頑張っていないから? 彼女たちが甘ちゃんだから?

そうかもしれません。でも、なぜそういう生き方をしているのかを考えることが、構造的不平等を解消し、プロセスの平等を達成するために必要なことであり、それなしに構造的不平等が解消されることはありません。

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