こんにちは。ファイナンシャルおねえさんこと、ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。
この国には、絶対に何かしらの「医療保険」に入らなければならない、というルールがあります。これは「国民皆保険(こくみんかいほけん)」という名前がわざわざ付けられていて、常識ある大人なら知っている基本用語のようになっています。
ただし、この「医療保険」は、テレビCMで流れているような民間企業が販売している保険のことではありません。「健康保険」「国民健康保険」などの「公的医療保険」を指し、病院の受付に何気なく提出している「保険証」は、あなたが公的医療保険に加入している証(あかし)なのです。
今回は、保険証が持っている絶大な3大パワーについて書いていきます。これは、次の段階、つまり、テレビCMで流れているような「民間医療保険」を考えるときにも役に立つので、ベテラン大人の方もお読みいただければと思います。
保険証のパワー(1) 3割負担を再認識
ここからは公的医療保険の代表選手である「健康保険」と「国民健康保険」を中心に解説していきます。まずこの二つの保険がどういうものかを簡単に説明しましょう。
「健康保険」とは、いわゆる「健保(けんぽ)」のこと。週に30時間も会社で働けば、半ば自動的に給料から健康保険料が「天引き」され、健保に加入することになります。公務員の共済組合による医療保険もここの健保のグループ(被用者保険)として考えてください。また、収入が一定以下であれば、いわゆる「扶養(ふよう)」されているということで、親や夫の健保に入ることも。
一方で、労働時間の短いフリーター、フリーランス・個人事業主の場合は、自ら市区町村などで手続きをして、国民健康保険、いわゆる「国保(こくほ)」に加入しなくてはなりません。
「国民皆保険」というルールがあるにもかかわらず、保険料が苦しくて何カ月も払わずに放置している方や、国保に入る手続きをしていない方がいるようです。しかし、公的医療保険の威力は絶大です。保険料の支払いだけはなんとしても死守してほしいと思います。
公的医療保険について考えるたびに、フリーランスのAさんを思い出します。Aさんがある日、自転車で転んで大ケガをしてしまいました。「健康だし病院にかかる気はない」と考えていたAさんは、普段、保険料を払っていませんでした。病気やケガをしても、軽症なら病院にいく必要はないかもしれません。でも、自力ではどうにもならないほどの大ケガを負った場合は病院にいかなくてはならないでしょう。また、道で意識を失ってしまい、通りすがりの人が救急車を呼んでくれて病院に搬送されたら、当然その費用は自分で負担する必要があります。さすがのAさんもこのときは、病院に行かなくてはならないほどの大ケガでした。
保険料を支払っていなかったAさんには、莫大な値段の治療費が請求されました。到底、すぐに支払えるような額ではありません。幸いAさんは人望があったため、仲間達が治療費募金をしてくれたのですが、なかなか病院に払う金額には達しません。結局、Aさんのお父様が老後用に貯めていたお金を捻出して、過去の保険料をまとめて納め、医療費の7割もの金額を「国保」に助けてもらいました。
そう、会員証やポイントカードのように何気なく病院の窓口で提出している保険証ですが、医療費のうち7割を負担してくれる心強い味方なのです。「公的医療保険は、家族、友達、恋人の応援をもってしても出来ないことをやってくれる。本当に困ったときの強い味方なんだ」とこのとき実感しました。公的医療保険といえば「3割負担」とよく耳にしますが、言ってみれば医療費が「7割引き」になるパワフルなカードであることをあらためて意識してほしいと思います。
パワー(2) 高額療養費
病気やケガといっても様々です。風邪のように、窓口で数千円払って済む病気ばかりではありません。誰もが、入院や手術など、いかにもお金がかかりそうな事態になる可能性があります。大病を患ったとき、ただでさえ体調が悪いのに、「いったい何十万かかるのだろう?」とお金のことまで不安になるのは、病状を悪化させてしまうこともあるでしょう。そんなときにも、保険証はパワーを発揮してくれるのです。
公的医療保険には、実際には治療に何十万かかったとしても「あなたは月に6万円弱までの自己負担でOK!」とか、「月に9万円弱までの自己負担でOK!」、低所得者なら「月に3万5千円くらいでOK!」というふうに、所得に応じて払う額の上限を決めてくれます。あまり収入のない人、ざっくり月50万円以下くらいのお給料の人であれば、それぞれ負担額は異なりますが、月に10万円を超えることはないというイメージです。これを「高額療養費」と言います。
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