社会

模索される「新しい男らしさ」は、マッチョに回帰するのか。いま必要とされている長渕剛成分。/杉田俊介×西森路代【2】

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杉田 清原と長渕はかつて友人だったけど、決別したと言われています。長渕と清原、どちらの人生がどうこうという話は僕にはわかりませんが、今の状況を見ると、清原は苦しいですよね。ほんの少しのたまたまの違いで、行きつく場所が変わってしまうのかなあ、と。逆に言うと、清原氏だってこれから変わり得るのかもしれない。

漫画の『ヒメアノ~ル』(講談社)も似たようなことを感じました。森田と岡田も学生時代はそんなに変わらない境遇にいたのに、大きく異なった人生になってしまう。岡田は平凡な幸せを手に入れ、森田は殺人を重ねて破滅していく。

原作を読んでいくと、作者の古谷実さんは、森田の非人間性に最後まで寄り添っていて、ぎりぎりまで粘ったけど、でも最後まで救いは見出せなかった……という感じです。ドストエフスキーの『罪と罰』みたいなことを試みていた。経済的な貧困とか社会問題にすら回収できないような、脳の機能の損壊すれすれの、現実に対する宿命的な齟齬が、言葉にならない森田の悲しみであり、「どうしようもなさ」なんですね。そういう意味での「階級」の話だと思う。映画版ではそれを90年代的な「いじめのトラウマゆえの殺人」というメロドラマに回収してしまった。思想としての暴力の問題を考え続けてほしかったですね。

本音をいえば、『アイアムアヒーロー』の場合も、花沢さんの原作にあるような、どろどろのルサンチマンやミソジニーや非モテ意識を抱えたもっと嫌な人間が、いろいろな状況に巻き込まれて、試行錯誤を続けながら、現代日本にふさわしい別の男性像やヒーロー像をふと実現してしまう、というような物語を見てみたかった。

西森 映画の中の英雄だと、最初からルサンチマンとミソジニーを持っていない人として出てくるから、物語が進むにつれて価値観を変化させたというわけではない、と解釈できちゃいますもんね。それは、大泉さんの持つ資質と映画の中の英雄があわさったからこそできあがったキャラクターなのかもしれませんけど。

『青天の霹靂』という映画で大泉さんが演じた役って、まさに最初はルサンチマンの塊で、後にいろいろな出来事があって新しい価値観を獲得する物語だったんですよ。そのルサンチマンの塊のときの大泉さんの、卑屈で憂鬱そうな表情にやたらとリアリティがあって。ルサンチマンの塊だったら、今みたいな人気者になってないかもと思うと、人はどっちにも行く可能性があるのかなって思っちゃいますね。

杉田 映画版の英雄はかなり「いい人」になってるので、原作ファンの中には物足りなく感じる人もいたでしょうね。古谷さんも花沢さんもルサンチマン系で、男性のダメなところ、嫌なところを執拗にえぐっていく作家ですよね。そういう人たちだけが描くことができる、新しい現代日本のマスキュリニティ(男らしさ)って何だろう、と。

西森 さっきから、「考え続ける」って話が出ていますが、杉田さんの本に出てくる「憑依」も大切だなと思うんですよ。憑依って特殊なことに見えるけれど、「人のことを他人事だと思わない」ってことではないかと。私は、自分以外の人のことを考えられるだけでいいのではないか、と思ってるんです。それこそ、力のある人が力を持ってない人のことを想像できないことって一番危険じゃないですか。

杉田 長渕剛ってインドの最貧困の子供とか、アフガンの女の子とか、沖縄の人にあっさり憑依してしまうんですね。政治的な文脈や歴史をすっとばして。それはマジョリティ男性による危ういマイノリティ憑依なのかもしれない。ただ、長渕さんの場合、変な上下関係とか権力意識が限りなく希薄な気がするんですね。目の前の存在をつねに対等に見るというか。逆にいえば、他人に対しても自分と同等の熱量を求めてくるので、暑苦しさを感じる人もいるでしょうけれど。

僕の長渕論は、男性の内側から男性性を食い破ろうとして、マッチョではない非暴力的な男らしさを求めて試行錯誤し、ひたすら考え続ける、というものです。そうした方法自体が男性的な独りよがりという気もしますが、率直なところ、これは女性から見てどうなのでしょうか?

西森 私は、そんな風にはあまり思いませんでした。杉田さんは、森岡正博さんの『感じない男』(筑摩書房)を意識してると言われてましたよね。『感じない男』を初めて読んだときに、男性が自分の中に目を向けようとしていることを珍しく感じたんです。なかなか男性ってそういうことが難しいのかなと思うと、それをしようとしていることに興味を持ちました。ただ、ちょっと思うのは、考える行為ってけっこうマチズモとつながっていくこともあるのかもしれないという危惧もあります。人より考えたからこそ、考え方が強固になりすぎるのはちょっとなと。

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