社会

なぜレイプ被害者が何もかもを失ってまで犯人を追い詰めなくてはならないのか。『涙のあとは乾く』

【この記事のキーワード】

何もかもを失った彼女が手に入れた、1ドルという勝利

日本の性犯罪被害者に対するサポート体制の手薄さや、警察・行政・病院でのセカンド・レイプが彼女を、そして日本でレイプにあう人びとを余計に苦しめ続けています。

フィッシャー氏にとって正義を求めるための一番苦しい戦いは、その後でした。

フィッシャー氏はレイプ犯、ブローク・ディーンズを相手取って裁判を起こし、東京地裁は被告を有罪とする判決を下します。命じられた賠償金はたったの三百万円。

しかし、この公判の最中に、被告はアメリカに送還され、そこで名誉除隊となります。アメリカ軍は、この卑劣なレイプ犯に対して、日本で公平な裁きが下されることを妨害したのです。そして、日米地位協定があることから、日本政府もまた彼女の闘いを無視し続け、妨害し続けました。

しかし、彼女は諦めませんでした。アメリカで再び裁判を起こすため、家も財産も失いながら、アメリカに送還されてから行方がわからなくなっていた犯人の居場所を突き止めたのです。その追跡の過程で、ブローク・ディーンズからレイプされた被害者が複数人いること、アメリカ国内においてこのレイプ犯が育児放棄の罪で刑務所に入れられていることが明らかになりました。

彼女はアメリカに渡り、レイプ犯ブローク・ディーンズを相手取って裁判を起こすところまで追い詰めます。

国外で判決が出た事件をアメリカの裁判所が扱うことはこれまで前例がありませんでした。しかし、彼女と彼女の弁護団の粘り強い訴えにより、アメリカの裁判所で審理が行われ勝利をもぎ取ります。フィッシャー氏は、外国で判決が下されたレイプ事件を、アメリカの裁判で闘い、勝訴するという画期的な前例を作り出したのです。

東京地裁の判決がアメリカで執行されることを認める代わりに提示された条件は、賠償金の支払い義務の免除。彼女が受け取った賠償金はたったの1ドルでした。しかし、この1ドルの賠償金こそ、何もかも失い、人としての尊厳さえ踏みにじられたフィッシャー氏がようやく勝ち取った、かけがえのない勝利なのです。

レイプ被害の痛みと、執念の闘いを知って欲しい

アメリカ軍はレイプに対して非寛容の姿勢を唱えています。しかし、彼らが世界中で実際に行っていることは、アメリカ軍によるレイプが起こったらとにかく隠蔽しよう、うやむやにしようとしているとしか思えません。

そして、改定されたとはいえ、日米地位協定は相変わらず日米間の不平等条約であり、被害者の救済を第一に考えてはいません。

彼女は、声をあげること、正義を求め続けることを自ら体現し、勝利しましたが、同時にたくさんのものを失い、傷つきました。フィッシャー氏のように闘い、勝利を勝ちとれる人ばかりではありません。日本のレイプ被害者の多くは泣き寝入りをしています。レイプ被害者も、そうではない人も、米軍基地問題に関心がある人も、そうではない人も、すべての人に『涙のあとは乾く』を実際に手にとってもらうことで、レイプ被害者の痛みや、彼女の闘いの何がすごいのか、それを感じ取ってもらいたいと思います。

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