頼るべきところに接続する。シングルマザーが自立するということ/『おひとりさま出産』七尾ゆずさんインタビュー【後編】

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 交際中の彼氏(フリーター)と「結婚せず」、しかし「出産したい」と望んで妊活&妊娠、出産した一部始終を描いた七尾ゆずさんの実録マンガ『おひとりさま出産』(集英社クリエイティブ)。非婚・少子高齢化が問題視される現代日本の社会背景もあって、一巻発売時から大きな話題を呼びました。二巻では無事出産、三巻では育児の模様が描かれていますが、三巻で特に印象的だったのが、“子の父親”という存在の捉え方でした。

 子の父親であり七尾さんの“彼氏”的存在の男性・ミウラさんに、七尾さんは何も望みません。扶養を求めるでもなく(そもそも認知すら望みません)、かといって遠ざけるでもなく、互いにとって丁度いい適度な距離感を持って接しています。お二人のような関係がなぜ可能なのか。七尾さんは非婚出産・非婚育児の選択に後悔はないのか。七尾さんご本人にお伺いすべく、インタビューを申し込みました。

(聞き手・下戸山うさこ)

前編:「恋愛も結婚もせずに、出産と育児をしたかったんです」

養育は安いけど教育は青天井

――マンガでは、七尾さんの実家のお母さんは最初「未婚の母なんて断固反対」という立場を取られていました。親戚の方には「結婚した」ってことにしてるんですよね。

七尾 そうですね。結婚して、離婚したことにしようと(笑)。別居とは言ったみたいなんですけど。設定上、そろそろ離婚しそうな……。うちの子が自分の名前を言えるようになってるので、親戚に会う機会があったら離婚成立しましたってことにしないとなって。七尾とミウラじゃ苗字違うじゃないですか。とりあえず離婚しなきゃ、親戚には会えないぞみたいな。自分だけだったらいいですけど、親からしたら、子供が未婚の母ですなんて親戚に言うのは恥ずかしいっていうのがあるのでね。それを尊重して、嘘に嘘が(笑)。

――うちも離婚したこと、親は、親戚には言ってないんですよ(笑)。

七尾 言いにくかったりするんですよね。

――正月とか、親戚の集まりで「旦那さんは?」って言われて、「仕事が正月もあって」みたいな。

七尾 ツラくないですか、それ言わなくちゃいけないの。

――離婚初年度はつらかったんですけど、今は別にヘラヘラっとしてます。

七尾 親御さんも「離婚しちゃったのよー」、って言った方がラクなのにね。

――意外と言ってくれないもんですよね。親世代、60代ですけど。まだ、家族の枠組みはこういうもんだ、みたいのがあるんでしょうね。

七尾 こんだけ離婚してる人が多いっていうのに。

――こんだけ多いからこそ、離婚によって貧困に転落してしまう母子もたくさんいますよね。七尾さんは年収200万円でアルバイトしながらマンガ投稿をする生活でしたが(現在はマンガ一本)、出産に向けて公的な行政の支援を上手に活用してやってらしたのが、素晴らしいと思いました。いろいろと手当てがあることを調べ、自分ならどれくらいもらえるかってことも調べ、自分でお金を稼いで(アルバイトのシフトを入れまくる)貯めておくって努力もし、すごいなと思うんですけど。産んでからずっとご自宅で、保育園に入った10カ月まで、お子さんを見ながらマンガの仕事をしてたじゃないですか。産後はアルバイトはしていない?

七尾 してないんです。出産前に貯めた100万の預金を切り崩して、あとは児童扶養手当・児童手当・児童育成手当を活用してなんとか。最初はちょっと、子育てナメていたというか、家に赤ちゃんがいてもマンガを描けると思ってたんですね。でも全然無理! 抱っこやおんぶでも暴れるから線が引けないです(笑)。なので保育園に入れて本当に良かったです。ただ最初の一年は、思っていた以上に、風邪を引いたり伝染性の病気で熱を出したりで、保育園からの呼び出しが多かったですね。これ、自宅で仕事してる漫画家だからいいけれど、時給で働くパートタイマーだったりアルバイターだったら大変だろうなって痛感しました。たとえば妊娠中に働いてたファミレスの厨房、常に人手不足なのでシングルマザーでも受け入れてはくれると思うんですけど、やっぱり時給労働だから、休めば休む分お金はなくなっていく。もしマンガがうまくいかなくて保育園預けてファミレスに復帰してたとして、しょっちゅう熱出してた1歳児のころは月5万円くらいしか稼げなかっただろうなぁって思いますね。

ただね、今のところはまだ、子供ってそんなにお金がかからない。紙オムツとミルクだって一カ月多くても一万円くらいだし、食費、服……服っていっても、もう、西松屋ばっかりだから。保育園でリサイクルとかでもらうことも多いですし。あと医療費は無料だし。

――自治体にもよると思うんですけど、子供の医療費は本当にありがたいですよね!

七尾 医療費無料っていうのは大きいし、手当てがあるのも大きいし、ありがたないなぁって思いますよね。また、もし生活に困ってどうしようもなくなったら、生活保護というのも一つの選択ですよね。

――体を壊しちゃったりしたら、頼るべきです。

七尾 ちっちゃい子を抱えてたら、なかなか思うように働けなくなっちゃいますしね。いざとなれば、生活保護に頼ったっていいと思うんです。だって一生、保護されるわけじゃないと思うんですよ。子供が大きくなったら働ける。人生の一時期、活用するということ。

――はい、その通りだと思います。

七尾 子供が小さいうちは、どうしても、働けない時は働けないし、一人親だろうが1人親じゃなかろうがみんな、体壊しちゃうことだってあるし、そういう時の制度だから。

――先ほど、思っていたより子供はお金がかからないとおっしゃってましたが、今後の「教育費」、ここで支出が増える家庭が多いのではないかと思います。七尾さんはどう計画されてますか?

七尾 今、とりあえず、大学までは行きたいって言ったら、行かせてやれるようにお金は貯めてます。少しずつですけど貯金で。

――学資保険ってかけてます?

七尾 はい、一応入りましたけど、ギリギリ出せるのが月8,000円。それで、中・高とちょっとずつ貰えるみたいですけど。合わせて150万円くらいかな。……ぐらいのことはしてますけど。あとは、どうなるか。

──ミライちゃんが「医者になりたい」と言ってるそうですが。

七尾 保育園で、将来は何になりたいですか? って聞かれて、お医者さんって答えたみたいなんですよ。それを、私があまりにも喜んじゃって。なんて立派なこと言うんだと思って。そんな医者になれとか言ったこともないのに。で、私がすごい喜んだら、お医者さんお医者さんって今のところは、言ってます。

──大学進学まであと15年くらい……頑張って稼がないといけませんね。

七尾 うう、頑張ります。でも、とりあえず、何とか出来るだけ奨学金使わずに、大学行かせてやれるように目指して、今は仕事も貯金も頑張ってますけど、すみません、行き当たりばったりで。

――うちも行き当たりばったりですよ。それに大学資金を用意したって、高校すら行きたくないとか留学するとか放浪の旅に出るとか言い出すかもしれないじゃないですか。あと、世の中がどう変わるかもわかりませんし、10年、15年後。

七尾 それはそうですよね。でも本当、親になって、お金が欲しいなと初めて思うようになりました。

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