「『樹木希林さんみたいだね』って言われはじめて」(紫原)
紫原 でも実は常識を越えて動くのは難しいっていうか――。私の元夫もお金をどんどん使っていた時期に……。たとえば「トレジャーハンターに500万円出資」とかを快諾しちゃうんですよ。「カリブ海に沈没船があって、そこに埋蔵金があるから、その船を引き上げたいので500万円投資してください」って人に「よし!」って500万あげちゃったりするんですよね。そういう無茶を続けてお金がなかったので、もう夫を監禁しないといけない……みたいな感じだったんですよ。
枡野 夫を?
紫原 はい。すぐ飲みに行ってお金を使っちゃうし。飲み屋で居合わせた全員分のお勘定を払っちゃうし。知らない人たちですよ、もちろん。あらゆる席の知らない人たちの飲み代を全部払っちゃう。
枡野 なんだろう、その不思議な感じは。卓袱台ひっくり返す星一徹が大金持ちになったらそうなるのかな?
紫原 なんでそうなっちゃうのか不思議ですよね。すごく気持ちよくなりたかったんだと思うんですけど。
枡野 気前いい感じで。
紫原 まぁ快楽主義者なんだろうなぁと思うんですけど。監禁って、物理的にはできるんですよね。紐とかで縛ってしまえば……。でもそれをするかどうかで結構悩むっていうか。本当にできるのかなってずっと考えてて……。子どもが幼稚園に行っていたので送り迎えがあるんです。そういう現実が毎日迫ってくる傍らで、夫を監禁して「絶対出てきちゃダメだよ!」って、果たしてできるのかなって。当時はお酒の面でもちょっとおかしかったので……。
枡野 (元旦那・家入さんは)アル中気味だったんですか?
紫原 手が震えていたので。だからお酒も飲まないように監禁できるのかって、ほんと考えてたんですけど……。人ひとりだから、大人2人くらいに手伝ってもらえたらできるかなって思ったんだけど、常識が邪魔してやっぱりできなくて……。やればできるけどできないことっていっぱいありますよね。
枡野 そうですね、なぜそこに踏み込めなかったのか。なんかもう自分の中で盲点になっていたりとか、なんかしちゃいけないって思いこんでいたりとか。
紫原 そうですね……。枡野さんの場合も、無理やり会いに行ってもお子さんが困惑するかも……。
枡野 そう。泣き叫ばれちゃって、トラウマになっても嫌じゃないですか。
紫原 ただその一方で、できないと思っていたけけど、でもやらなきゃと思って、できたこともあって。それは夫が失踪していたときに、ありとあらゆる手を駆使して居場所を突き止めたことです。ピンポンするとか、「張る」(まちぶせ)とか、彼が滞在してそうなルノアールに行くとか……。
枡野 そこらへんが面白かったですね。あきらめずにね、Twitterとかも駆使して探すんでしょ?
紫原 名字とか名前で検索すると、誰かが「家入一真、ルノアールにいた」とか書き込んでいるので。で、どこのルノアールかさらに探って、直接乗り込んで。そうしたら(元旦那さんは)お金がもうないのに300万円の高級腕時計とかを持ってるわけですよ。しかも、前も同じ時計買ったよね? っていう。何カ月か前にね。それで「なんでまた同じの買ってんの?」って問い詰めたら、「ちょっとキャバクラに行って、置き忘れてきちゃったから……」って。
枡野 う~~ん。
紫原 だからルノアールで「腕時計外して!」って言って外させて。その足で質屋に持ってっ行って現金に換えたりとか。そういうことやってました。
枡野 (元旦那さんの振る舞いは)それはもう一種の病ですね。
紫原 本当に病で、なんか、破壊衝動だったと思うんですよ。
枡野 幸せになりたくないみたいなことなのかな?
紫原 ゼロからイチにするのがすごく好きな人で。クリエイティブで刺激が強いからなんだろうけど、刺激がなくなってきちゃうと……。
枡野 いったんチャラになりたい、みたいな感じなのかな? 金があると、いったんリセットしたいみたいな? 落ちぶれたい願望があるんですかね。
紫原 より強い刺激をっていうときにお金を失くすしかなかったんじゃないですかね。刺激が麻痺しちゃってるように見えました。
枡野 でも離婚も、紫原さんが言い出さなければ、べつにそのまま籍だけは入ってるってこともあったんですよね。
紫原 はい、そうですね。別居してから離婚までは4年間あって。最初の2年くらいは荒れていて。毎日、お金がありませんとか、お金・会社のトラブルが起きるんですよ。もう毎日いろんなことがありました。ただその後の2年間は静かだったんですよね。お互い別居でうまく行ってて。都知事選も本当に出てほしくなかったですけど、まぁ出るなら仕方ないなって思えたし。都知事選出たから離婚しました、だから私は無関係です、なんて公表できるわけでもなかったんで。だからそういう意味では、都知事選が離婚の大きな理由になったわけでもないんですけど……。
枡野 はい。
紫原 じゃあなぜ離婚したかと言えば、奥さんがずっとサポート役にまわる時代でもないっていうか。夫婦の繋がりを持ち続けることだけに価値がある時代でもないなって。それで、樹木希林さん[注]……。
枡野 樹木希林さん!
紫原 そう。当時、私が周りの人から、「樹木希林さんみたいだね」ってだんだん言われ始めて。「あんなむちゃくちゃな人と結婚して、それでも別れず夫婦でいて」って。
枡野 希林さんがすごいのは、結婚雑誌(『ゼクシィ』)のCMに(夫・内田裕也さんとの夫婦共演で)出ていて。どこか遠くを見るような目で。あれ、すごい演出だよね。旦那さんが捕まっても、あんなことがあっても私たちは夫婦、みたいな……。(そのCMオンエア期間中に内田裕也さんが愛人へのストーカー容疑で逮捕)
紫原 本当にすごい。樹木希林さん、立派な方だと思います。元夫も一時期おかしなときは「明子と子ども、そして愛人の●●も、みんな仲良く暮らしたらいいのに」とかツイートしたりしていたんですよ。
枡野 面白い意見ですね。
紫原 ほんと馬鹿だなぁ、むちゃくちゃだなぁと思いました。樹木希林さんは本当に素敵だなぁと思うんですけど。私もそうやろうと思えば、できちゃうんですよ。慣れちゃってるので。だけど、めちゃくちゃな夫婦生活を続けるためだけに存在価値があるような人間にならなくていいんじゃないかって。
枡野 もうちょっと自由になってもいいんじゃないかと。
紫原 そうなんです。自分の仕事もやり始めていて、すごく楽しいし。私が樹木希林さんと違うのは、希林さんは女優として確固たる地位を持っていて。その一方で旦那さんはすっごくむちゃくちゃやっていて、それが両軸なんじゃないかと思うんです。
枡野 はい。
紫原 そして私自身はもうずっと旦那さんの奥さんというだけの存在だったんですけど。ただ夫婦が揺らいだ時に、途中で自立の道が出てきて。「単体」として見られる可能性が出てきた。そのときに初めて知ってしまったんです。単体として見られる楽しみがあるって。
枡野 「奥さん」じゃなく……。
紫原 そうです。私はもともと「いい奥さん」になろうと頑張っていて……。旦那さんのお客さんたちが家に来ても、あまり喋らないでいて、「ほんとすごーい」って言うだけで。
枡野 それこそキャバクラ嬢みたいに(笑)。
紫原 「ママ」になろうとばかり思っていた時期もあって。
枡野 その頃会わなくてよかった。大嫌いになってたかも。
紫原 「枡野さんすごーい」って(笑)。
枡野 家入一真さんは好きだけど奥さんは嫌い……みたいになってたかも(笑)。
紫原 あははは。そういうことやって「いい奥さんだね」って言われてる時期もあったんですけど。そのうち、「そういう振る舞いを“いい奥さん”だとは思わない」と言ってくれる人のほうが、私は仲良くなれるっていうことに気付いたんですね。そうなってきたとき、“あ、私、離婚してもいいかな”って思ったんです……。