樹木希林にならなかった私、内田裕也になれなかった僕/紫原明子×枡野浩一【3】

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「すごく内田裕也さんを羨ましいと思った」(枡野)

枡野 樹木希林さんの旦那さんの、ロッケンロールの内田裕也さん[注]がね、つきあってる女性(愛人)の家の鍵を(鍵の業者を呼んで)勝手に開けて入った事件があったでしょ?

紫原 ありましたね。

枡野 あれを見たとき、「僕もああすればよかったぁ」って思っちゃったんです。僕、結婚相手の人が鍵換えて入れなくなくなったことがあったから。この本にも書いたけど。

紫原 はい……。

枡野 そのときにもっとうまいこと……鍵屋さん騙して(内田裕也さんみたいに自宅の換えられた鍵を開けてもらって)入っていれば、もっと違う展開になったのかなって、あの事件のときに思って……。すごく裕也さんって羨ましいと思った。

紫原 どうなんだろう……。違う展開はあったかもしれないけど……。

枡野 ま、犯罪者になったかもしれないですけどね、普通に。

会場 (爆笑)

紫原 パワー対パワーになっちゃいますよね。でもそうなると元奥さんのほうがけっこうパワーが強い方で……。

枡野 そうそう、体力もあったし……。

紫原 枡野さんはどっちかっていうと、振り回される側ですよね。

枡野 彼女がね、山登りの漫画を描いた事があるの。離婚後に。実際に家族で山登りしたことがあるの。(その漫画はそれを題材にした作品で)。そのとき僕は途中のお茶屋さんで体力ないから休んだんです、ひとりだけ。(そして元奥さんと子どもだけが山頂まで登った)それで、その漫画を見たら、もう夫がいない漫画になっていて。「私はこれで元気に生きていく」みたいな漫画になっていて。山頂で。遠くを見ながら。

紫原 あははは。

枡野 それを読んだとき、「あそこかぁ~!」と。あのお茶屋で休んだときが別れ道だったのかぁ~と。

紫原 あはははは!

会場 (爆笑)

枡野 そう思ったけど、でも、もしタイムマシンであのときに戻っても、僕はお茶屋で休むから。

紫原 あはは……。まぁ体力の限界は仕方ないっていうか、身体と心は繋がってるし……。

枡野 だから、その漫画を読んだとき、ああ、自分は絶対離婚する運命だったんだなと。そう思いました。

紫原 枡野さんは芸人さんもやられていたんですよね?

枡野 芸人活動もねえ、それこそ政治家になったほうがまだよかったですね。

紫原 あはは。

枡野 もし結婚してたらそんなこと(=芸人を目指すこと)できないから、離婚してよかったなと思ってましたよ、芸人目指していたときは。

紫原 そうなんだ……。

枡野 それで紫原さんは(周囲の人たちから)「樹木希林さんみたいになれるよ」って意見もあったんですよね?

紫原 はい。夫がむちゃくちゃなのは、みなさん知ってたので。それで「よく離婚しないよね、本当に偉いよね」って。むちゃくちゃな夫に耐えるのが一般的にはいい奥さんじゃないですか。ただ私としてはほんと、離婚してもしなくてもどうでもよくなってたんですよ、別居が長く続くと。たとえば私がそこで浮気をしようが楽しく遊ぼうと思おうが、旦那さんはたぶん何も言わない……。だから離婚してもしなくても何も変わらないと思ってたんですけど、「独身に戻ってみたい」という気持ちもあり……。自由度が変わるかなって。私、結構、既存のものに縛られるのが好きなんです。

枡野 すごいですね。「私、既存のものに縛られるのが好きなんです」って。

紫原 結婚とか離婚とか、そういうルールの中で仕事するのが好きなんです。

枡野 法をちゃんと守るのが好きなんですね。

紫原 はい。それはこの本(『家族無計画』)の中で書いている「(仮)の話」[注]にも繋がるんですけど。私はたぶん「ゼロイチ」のクリテイティブってあまりなくって。

枡野 「仮に置いてといて…」という(仮)、そのかりそめの状態、保留状態を耐えていくことに喜びを感じるんですか?

紫原 枠組みがある程度大きくある中でちょっと自由にやる……それくらいじゃないと不安になってしまうんですよ。ガッチガチにルールがあると、それはそれで窮屈なんですけど、でも何もないままに「自由に描いていいよ」って言われても描けなくて……。

枡野 はい。

紫原 「離婚しました。自由です」とか「結婚してます。奥様です」とか、その枠組みの中でそれなりに自由にふるまっていたい。その中でちょっとふざけたことをしてみるとか。人が作ったルールの中で自由なことをするのが安心するっていうか。

枡野 なるほど……。旦那さんは離婚に抵抗しなかったんですか?

紫原 離婚したくてたまらなかったみたいで。「いつしてくれるのかなぁ~」みたいな。

枡野 ほんとに? 「オレたち21の頃から一緒だったじゃないか!」とか言わないんですか?

紫原 ぜんぜん! 離婚した頃の彼は政治家になる気満々だったので。

枡野 でもむしろ政治家って離婚しちゃダメとか、夫婦円満であることをアピールしたりしないですか?

紫原 でも選挙のときは家族がいるっていうのも伏せていましたので。別居しているっていうのもネガティブじゃないですか。家族がいるっていうことを利用もしないけど、いることも言わない、みたいな。

枡野 でもそのときすでに文章書かれてましたよね、紫原さんは。「家入明子」名義で。

紫原 書いてましたね。

枡野 一緒の雑誌に書いたことありますよね、『ジブリ』が出してる……

紫原 はい、『熱風』ですね。

枡野 熱風って書いてたぶんジブリと読ませるあの雑誌。

紫原 「日本語がなくなる日」っていう固いテーマで。

枡野 ふたりで書いたことが。それがたぶん、誌面で一緒になった最初だと思うんですけどね。

[第3回の注釈]

■樹木希林
女優。1943年生まれ。21歳のときに個性派俳優の岸田森と結婚するも25歳で離婚。30歳でロックンローラー内田裕也と再婚。1981年、夫の内田裕也が無断で離婚届を区役所に提出するも、樹木は離婚を認めず、離婚無効の訴訟を起こし勝訴。娘は内田也哉子。また、内田也哉子と結婚した本木雅弘は娘婿に当たる。複数回におよぶブルーリボン賞や日本アカデミー賞の助演女優賞を始めとして、数えきれないほどの受賞歴がある。

■内田裕也
ロックンローラー、俳優。1939年生まれ。夫人は女優の樹木希林。20歳でデビュー後、自らの音楽活動とともにバンドプロデュースやフェスティバル主催などをおこなう。主宰する『ニューイヤーロックフェスティバル』は現在まで43年間に渡って開催されている。俳優としても活躍し、脚本・主演作である『コミック雑誌なんかいらない!』はカンヌ映画祭監督週間に招待、ニューヨーク・ロサンゼルスの映画館でも上映され、世界的にも高い評価を受けた。1977年に大麻取締法違反で逮捕。1983年に銃刀法違反で逮捕。1991年に東京都知事選立候補。2011年には愛人の住居の鍵を開けて侵入し、「愛人ストーカー事件」として大きく報道され、強要未遂と住居侵入で逮捕されている。

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