
『愛のことはもう仕方ない』/『家族無計画』
紫原明子×枡野浩一対談
「無計画」で「仕方ない」夫婦と男女~離婚と自立とセックスレスと~
枡野さんの元夫婦の寝室にはバイセクシャルの奥さんの好みなのか「辺見えみりのヌードカレンダー」が貼ってあり、それを見るたびにセックスが弱い枡野さんはいつも負け感を感じていたそうです……。逆に紫原さんは「女だからこそ被害者意識を持ちたくない」と主張します。男女の性のカタチと常識をおふたりは問いかけます――。
「辺見えみりにも負けてるし、妻にも負けてる感じだった」(枡野)
枡野 でも、樹木希林さんは貴重だから、すごくカッコよく見えるんじゃないですか?
紫原 そうですね。あと、「振り回す人」と「振り回される人」がいると思っていて。振り回す人の力が強いと振り回されている人も、周りからはカッコよく見えてくるような気がします。振り回す人の強力なパワーを総受けできる人はカッコよく見えますよね。
枡野 男女の問題もあって、僕の奥さんは振り回す人だったと思っていて。
紫原 うんうん。
枡野 いまは僕の努力のおかげでね、「枡野はヤバい奴だ」とみんなが思ってくれてるでしょ?(笑)
紫原 ふふふ。
枡野 でも、ほっといたら、(元奥さんのほうこそ)酷い奥さんだといってた人もいたと思うの。奥さん、子ども5人いて。5人いる内訳は、最初の旦那さんの子、次は僕の子で。3人目はいまのパートナーの連れ子なのね。で、さらにそのあと2人生まれたのかな……。それで合計5人いるらしくて。だから僕がそういうことにまったく触れないタイプの書き手だったら、「変わった奥さんだったよね」っていう。むしろそっち側に、「変な奥さんだよね」っていう意見のほうがネットとかでは多くて。きっと。それを阻止しようと頑張って離婚のことを書いたわけでもないんですけど。
紫原 一瞬そうなのかと思った!
枡野 ははは!
会場 (笑)
紫原 けっこう枡野さんって、奥さんのこと書かれる人だなって思ってたから。
枡野 ほんとはこの本(『愛のことはもう仕方ない』)で全部離婚のことは書き終えてすっきりしたかったんですけど、まったく書き終わらなかった。半分くらいしか書けなかった。
紫原 やっぱり、読む人が読んだら「しつこい男だなぁ」って……。
枡野 言われますね。
紫原 “私の妻が、子どもをうるう年に産もうと言い張って産んだ”とか、けっこう恨みがましいところがあるっていう(笑)。
枡野 それはちょっと面白いなと思って書いているんですよ。(奥さんが)「うるう年に産む!」と言うっていうのは面白いなって。他人事だったら、面白い奥さんですよ。
紫原 それは、奥さんへの愛の残り?
枡野 だって僕が点滴打って入院してるときも、「私なんか点滴引きちぎって病院から逃げ出してきたよ!」って言われたんですよ?
紫原 「なんでおとなしく医者の言いなりで寝てるの!?」って言われたんですよね。
枡野 こっちがもうくったくたでボロボロだったので、なんだよーと思っちゃったんですけど。でも男女逆なら、そういうのってカッコいい男の子でしょ?
紫原 女性でも豪快でカッコいいなとは思いますけど。でも当事者はやっぱ疲れますよね。でも枡野さんは、疲れなかったんですか?
枡野 いや、だから、「面白い!」と思っちゃってたんですよね。彼女はバイセクシャルであることを公言していて。女性とつきあっていたことも公言していたし。辺見えみりのヌードカレンダーを(彼女の)寝室に貼っていて。僕はもうそれを見るたびに負けてる感でいっぱい。
紫原 辺見えみりに負けてる感じ?
枡野 辺見えみりにも負けてるし、妻にも負けてるみたいな気持ちだったし。
紫原 ………。
枡野 あと元奥さんの前の旦那さんも漫画家さんで、人気サブカル漫画家さんだったりとか。妻を愛人にしていた人もクリエイターだったりとか。いまの旦那さんは編集者なんですけど。そういう人たちも知ってしまってるし、顔も知ってるし。もう「経験人数」なんかも圧倒的に負けてしまってるし。そういうのを面白いなと思う反面、なんかもうパワーに圧倒されてたって感じがあるんですよねえ……。
紫原 敗北感に性的興奮を覚えるタイプではないんですか?
枡野 若いときにはそういうときもありましたけどね……。もうちょっと僕が性的に…(強かったら良かったのかもしれない)。なんか僕、(姓名判断的に)“枡野浩一郎”だったら下半身強かったらしいんですね、画数的に。“枡野浩二”でもよかったらしいんですけど。浩一は下半身弱いらしくて。
紫原 運命づけられてる……。
枡野 だから、それは大きかったと思いますよ。セックスレスが離婚の要因だったってほんとは結論づけてもよくて。
紫原 なかったんですか?
枡野 うんとね、僕がだんだん引いちゃったの。出産してから。それと、あと向こうがお酒が好きで僕が飲めなかったから。「酒飲んでるときはしたくない」といったら、ひるんだ表情されたことはすごく覚えてる。
紫原 奥さんからしたら、自分のことをすごく好いてくれてるはずの相手、信じてる相手から一歩引かれるっていうのは、すごく修復不可能のような感じに思えてくる……。
枡野 しかも僕が「キスが嫌い」とか言っちゃったら、「チェッ」っていわれたから、そのとき。
紫原 「チュッ」じゃなくて「チェッ」……。
枡野 それが離婚原因だと言われると……。まぁどれもこれも離婚原因なんですけど。結婚指輪あげなかったこともダメだし、山登りの途中でリタイアしたのもダメだったし、なにもかもダメなんですけど、でもあえてひとつだけいうと、セックスレスは大きかったかもしれませんね。
紫原 う~ん。なるほど。
枡野 くたくたになっちゃうんですよね。体力ないんで。
紫原 でも年齢とか時期もありますよね? 元気があるときとないときがあると思いませんか?
枡野 僕は元々ずっと小さいときから元気なくて。
紫原 あ、そうですか……。
枡野 いまはもう年なんですけど、年で衰えを感じるかっていえば、昔からずっとこうだったなって印象ですね。
紫原 そうなんですか……。