「僕だって才能はあるけど妻のために仕事を我慢している」夫婦間のパワーバランスと嫉妬/紫原明子×枡野浩一【4】

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「奥さんから才能を評価されたら嬉しかったんですか?」(紫原)

枡野 だから、奥さんはそうじゃないタイプの女性で、新鮮ではあったんだけど、実際に一緒に暮らすと、向こうも呆れますよね、体力ないことに。こっちはこっちで「タフだな~」って(思ってました)。タクシー乗るのも嫌がるんですよね、金もったいないからって。でも子ども2人いて、もうくったくたで、「ちょっともう乗ろうよ」って言って、よく揉めたことがありましたね。

紫原 そういう価値観や経済観の違いは大きいですよね。

枡野 だから家入さんがそれだけ稼いでいたら、300万円の腕時計を買ってもいいと思うんですけど、そこまで豊かではなかったんですか?

紫原 豊かなときだったら、ほんとなにしてもいいんですけど。そうじゃないときでもゼロがマイナスになるまでに使おうとしちゃうんで。それはちょっと危険でしたね。

枡野 でも借金できるってのはお金持ちだからですよね。プラチナカードっていうのを持っていらっしゃったんでしょ?

紫原 あ、ブラックカードです。チタン製の。

枡野 それを与えられて、借金してもお金が動いてるっていうのは金持ちなんですよね。

紫原 まぁ借金まではいかなくて、ギリギリのとこで止まったんですけど。

枡野 今はどうなんですか? 元旦那さんは経済的に困ってるんですか?

紫原 昔ほど豊かではないけど、困ってはいない……。ご飯が食べれないほどではないみたいです。

枡野 そこがね、ご立派ですよね。

紫原 枡野さんは歌人になられる前はなんの仕事を?

枡野 あの、もともとライターだったり、広告会社に勤めてたりとかしてて。僕、大学をすぐ辞めちゃったんですね。そのあとリクルートって会社にアルバイトで入って。そのあと音楽雑誌のライターになったりしながら、広告の会社に正社員で入ったこともあるんだけど。でもそれぞれ何年も続かずにフリーライターになっちゃって、それから歌人になったっていう流れで……。98年に、約20年前に短歌の本が出て、そこからはずっと歌人で。文章書いて食ってるんですけど。圧倒的に経済格差……奥さんのほうが金持ちだったので。

紫原 売れっ子漫画家さんですもんね。

枡野 (元奥さんとの経済格差をめぐっての)そういうエピソードはいくらでも思い出せて。奥さんはお酒をいっぱい飲む人で、僕は飲まないから、会計がかさむじゃないですか。そしたら、むこうが払うよって言ってきちゃうとか。僕、料理できないから、料理はむこうが作って、外食は僕が払うみたいのが最初のルールだったんだけど。むこがすごく飲むから驚くような金額になっちゃうんですよ。そうするとむこうも払うよっていってきて、だんだんルールが曖昧になっていってみたいなのもあって……。あと一軒家を借りていて、家賃を僕が払ってたんだけど、すぐに金がなくなって。妻に金借りて家賃を払っていて。だから僕、妻に借金があって、それはなにに使ったかというと家賃なんです。それが離婚裁判のときに、裁判官とかに笑われて。

「夫婦の貸し借りはおかしいよ。あなたなにしてんの?」って言われたんだけど。僕は僕で、稼ぎ少ないことに引け目があったので、なんかね、そういう風になっちゃったんですよね。

紫原 いくら払うかを対等にすることで、夫婦の関係性が対等になる場合もあるじゃないですか?

枡野 でもさぁ、違う仕事だし、絶対向こうの稼ぎに追いつかないわけですよ。僕の(短歌の本の)初版部数と向こうの(漫画単行本の)増刷部数が同じだったりするんですよ。それで彼女は(出版社から送られてきた)ダンボールを開けて、「なぁ~んだ、増刷かぁ」って言ったことがあって。それは、新刊が届くと思って待ってたら、たまたま昔の本の増刷が届いたってことで。でもその「なぁ~んだ、増刷かあ」っていうのが僕にはすごくショックで。「増刷ってどんだけすごいことかわかってんの!?」って思って。ほんとにつらい思いしたんですけど。そういう格差に対する嫉妬心はあったと思います、僕。

紫原 でも、嫉妬心はあっても、別れたいと思ったのは枡野さんのほうじゃないんですもんね?

枡野 まあねぇ。

紫原 けっこう男の人は、自分より稼いだり、自分より社会的地位が上の女性とは結婚したくないんですよね。

枡野 だから僕は、彼女のことをサポートするジョン・レノン[注]みたいな僕――っていうのに、ちょっとうっとりしてたところもあったんですね。今思うとね。言葉にはしてなかったですよ。でもいま当時のことを思い返すと、「僕だって才能あるのに、彼女のためにこれだけ犠牲になれる僕……」みたいな。そんな気持ちでいたんだと思う。

紫原 「自分だって才能はあるのに」っていうのが担保になってる……。

枡野 彼女の仕事のために一旦仕事を休んだときがあって……。ほんとは(妻に)「枡野くんも才能あるんだから仕事休んだらダメだよ」って言ってほしかったんですよ。でもそういうことも言語化できずに、自分で申し出ちゃったから。特に彼女、僕のテレビの仕事を嫌がる人だったんで。当時僕、ちょっと売れっ子になりかけてたんで、テレビの仕事がやたら来たんですよ。全部断っていて。子どもいて、子どもの面倒みないといけないから断りますって。(テレビ局側から)「だったらベビーシッターを派遣するので出てください」って言われても、「うちの妻がベビーシッター嫌がるんです」って断ったことが何度もあって。

紫原 …………。

枡野 それが嫌すぎて、後に芸人活動やっちゃった……もう一度テレビに出たい……そんな気持ちがあったかもしれないと、いま過去を振り返ると思いますね。

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