「僕だって才能はあるけど妻のために仕事を我慢している」夫婦間のパワーバランスと嫉妬/紫原明子×枡野浩一【4】

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「もともとの性への反骨神というか」(紫原)

紫原 やっぱり私たち、「振り回され」じゃないですか?

枡野 振り回される側ですよね?

紫原 圧倒的に振り回され側で。

枡野 でもこの本(『家族無計画』)には全然、被害者意識ないですね?

紫原 被害者意識を持ったら負けだと思ってるんです!

枡野 そうですかぁ。そこが男っぽいなぁ。僕、被害者意識でいっぱいでしたよ。絶対自分のせいだったっていまは思ってますよ。でも(離婚当時は)かなり被害者意識でしたよ。

紫原 あっ、でも、私が男性だったら枡野さんになるかもしれないと思いましたよ!

枡野 ほんとですかぁ?

紫原 女性だから被害者意識を持ちやすいと思われていて、それが嫌なのかもしれない。

枡野 僕は逆にね、「男は被害者意識を言わないから僕だけでも言おう」……という気持ちはあるんです、確かに。

紫原 あ、ですよね! もともとの性への反骨精神というか。

枡野 あるある。僕のことを「男のくせに離婚のことをくよくよ言いやがって!」と●●●(有名出版社)の●●さんって偉い人がゴールデン街でクダ巻いていて……。

紫原 名指し(笑)。

枡野 ……いたのを見た人がいるのね。

紫原 あはは。

枡野 それを聞いたときには意地でも(これからも離婚のことを)書いてやると思ったし。確かにそれはある。

紫原 振り回された女性が、「あのとき、あんな酷い目にあって、アイツもう最悪、死ねばいいのに……」って、そういう恨み節はある意味、規定路線なんですよね。

枡野 パターン化しちゃってますよね。

紫原 私にはそこからはみ出したい欲望があって。

枡野 僕も実はそれがあるのかなぁ。もちろんくよくよしてるんですよ、元々。素で。みんな、「離婚のこと書くのやめたら?」って言うんですよ。言わない人がいないくらい。僕とどんな親しい人でも言いますよ。(小説家の)長嶋有さん[注]とか、親身になってくださる人ほど「さすがにもうそろそろ……」って。

紫原 あははは……。

枡野 年賀状でもみんなが「もう離婚のこと書くのやめたら?」って。糸井重里さんとか、もうみなさん言ってくださって……。「もう自分の人生ちゃんと見つめ直して、離婚のこと書くのやめなよ」って。なのにまた本出しちゃったから……ほんとにねぇ。

紫原 確かにまだ離婚が完了してない感じがします。

枡野 「離婚(仮)」?

紫原 そう、「離婚(仮)」。片足まだ結婚に突っ込んでるというか。

枡野 もし子どもに会えてたらねえ。月1回ちゃんと会えて、それこそ「毎月会うのも面倒くさいな」なんて思える暮らしだったら、とっくに忘れてる気がするけど。会いたい……憧れのままだから。それこそ好きだったけど肉体関係なかった女性ほど忘れられないように、僕にとって息子が「神様」みたいになってるんですよ。

紫原 はい。

枡野 息子がTwitterにいるの見つけちゃったんだけど、鍵がかけられてて見れないんですけど、なんかそういうの見ると、(余計に息子のことが)「神様」みたいな気持ちになっちゃうんですよ。

紫原 かなわない度がどんな女性より高いんじゃないですか?

枡野 けっこう僕は離婚家庭の人といっぱい話していて。両親離婚した子どもたちにもいっぱい会ったんです。そしたらある子が、離婚して会ってないお父さんと連絡してみたんだって。すっごい軽い気持ちで。そしたらお父さんの自分への愛情がハンパなくて、引いてしまった、怖くなったと。それからは会ってませんって。ああそうか、そんなに子どもに負担になるのかと思ったり……。なんていいながら、こんな『神様がくれたインポ』ってタイトルの連載に息子に会えないことを延々と書いて、思春期の息子が検索して読んだらどう思うんだろうって。でもなんか書いちゃったんですよねえ。

紫原 どう思うんですかね。お母さんからどう聞かされてるんですかね。

枡野 どんな風に……聞かされてないんじゃないかなぁ。

紫原 Twitterに鍵がかかっているのとかも、もしかしたら……。

枡野 わかんない。最初のうちは鍵かかってなかったんです。あと(息子の)日本語がなんか変なの。(擬音語みたいな)日本語じゃないことしか書いてなくて。

紫原 ふふふ。

枡野 自分の子どもじゃないみたいでした。

紫原 そうですか。「❤(イイネ)」をそっとつけたりとか?

枡野 つけなかった、つけなかった! いつもは、僕の悪口とか書いてる人見つけたら「❤(イイネ)」押すんだけど。エゴサーチが日課だから。息子にはさすがにそれやめようと思って。やめました。

紫原 そうですね。それはちょっと大きな「❤(イイネ)」ですもんね。

枡野 そうそう。いま、『枡野書店』という小さな仕事場(兼フリースペース)やっているのも、こうやって場所を公開し続けていると、どっかで(息子が)いつか来るんじゃないかっていう期待があるのかもしれない。

 

[第4回の注釈]

■ジョン・レノン
ミュージシャン。元ビートルズ。1940年生まれ、80年没。29歳のときにオノ・ヨーコと再婚し、6年後に第一子が生まれた際に「ハウスハズバンド(専業主夫)宣言」をし、音楽活動を休止し、育児と家事に専念した。オノ・ヨーコはビジネスを担当した。前妻であるシンシアとの間にも子どもがいたが、その当時は一切育児も家事もしなかったという。

■『噂の真相』
「反権威スキャンダリズム」を標榜していた雑誌。政治家や芸能人のみならず、作家や文化人のスキャンダルも平然と記事にしていた。2004年に休刊。枡野浩一と元妻は交際時に路上を手をつないで歩いているところを盗撮され、「人気女性漫画家と新進歌人の交際」としてモノクログラビアページに掲載された。

■『もう頬づえをついてもいいですか』
枡野浩一・著。≪無声映画を観るように読む、極私的映画コラム集。AからZのアルファベットで始まる26本の映画について、歌人・枡野浩一が短歌を詠み、語る。独自の視点と率直な語り口の映画コラムは、可笑しく切なく綴られ、ときに私小説にも近づく。≫(amazon内容紹介より)

■長嶋有
小説家。ブルボン小林名義で漫画・ゲームの批評もおこなう。『サイドカーに犬』が第92回文學界新人賞を受賞し、小説家デビュー。同作は映画化もされた。「猛スピードで母は」で第126回芥川賞受賞。『夕子ちゃんの近道』で第1回大江健三郎賞受賞。枡野浩一の『結婚失格』には「真夜中のロデーボーイをふりかえる」という長嶋有の特別寄稿が収録されている。

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