「男の人は一握りの人しか浮気しない、自分が夫婦ゲンカするようになる、とは思ってもなかった」/紫原明子×枡野浩一【6】

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「うちの家訓が“政治家と芸能人にはなるな”」(紫原)

枡野 それで、そういう感じで2丁目に通い続けて、いろんな人と知りあって、ちょっと気に入ってもらうこともあって。一瞬つきあうことになったこともあるんだけど、でもやっぱり僕があんましハードなことができなくて、ダメになっちゃたりとか……。

紫原 やっぱり求められるもののレベルは高いんですか?

枡野 う~ん、やっぱり性的なものが圧倒的に経験豊富なので……。

紫原 教えてあげたいって人はいないんですか?

枡野 だから、スレない人が珍しい……、あ、こういうこと言っちゃうとすごい偏見になっちゃうけど。童貞っぽいゲイの人とか出会わないんですよ。若くても経験豊富だから。そこで年食っててバツイチなのに経験が全然ない童貞みたいな自分は、太刀打ちできなかったですね。

紫原 そんなに……! それはほんとに強者の世界ですね。

枡野 はい。

紫原 それでも2丁目が楽しいんですか? キャバクラに比べて。枡野さんはべつに夜のお相手を探しにいってるわけじゃないですもんね?

枡野 それはでも、「すごーい」とか言わないもん、ゲイバーに来るようなゲイの方は容赦ないから。

紫原 あ~。そっちのほうがいいんですか?

枡野 まだマシですね。

紫原 ほんとのこと言われたい?

枡野 うん。ほんとのこと言われて傷つくほうが、まだ僕にとっては居心地よくて。

紫原 でも傷つくんですよね?

枡野 でも図星だから。あ~当たってるなって思って。痛かったなって思って。「すごーい」って心にもないこと言われるよりは何倍もマシですね。

紫原 「すごーい」は無害なような気がしますけどね。

枡野 だって、「ほんとはすごいと思ってないでしょ!」って言いたくなっちゃうもん。

紫原 怒りが……出ちゃう?

枡野 それ言ったら、嫌な奴でしょ? 「あんた、ほんとはすごいと思ってないでしょ? 7万部売るってどれほどすごいと思ってんの? 言ってごらん!」って言いたくなっちゃうから。

紫原 でもそのキャバ嬢が「(すごーい、って褒めるのは)どうせ金のためよ!」って言ったら、好きになるんですか?

枡野 う~んとね、そっかも。

会場 (大爆笑)

紫原 くくくく。

枡野 本音をちゃんと言ってくれて、それが納得いく理由だったら……急にキャバクラにハマる人生があったのかな、自分にも。

紫原 あははは。あの、私、本にも書いたんですけど。「この人の旦那さんは一晩2000万円キャバクラで使うらしいよ」って、キャバクラに一緒に行った人が言っちゃって。そうしたらキャバ嬢が、「そんな、なんで自分の人生無駄にして!」みたいに私のことを叱ったんですね。それで「まだ若いじゃないですか! これからですよ!」って言われたんですよ、キャバ嬢に。すごい勇気づけられたっていうか……。

枡野 勇気づけられたんですか。

紫原 はい。そう言われて、そのキャバ嬢の子を好きになっちゃって。私も枡野さんに似ていて、怒られたから好きになるみたいな……。そんなことがありました。

枡野 あ! だから僕、キャバ嬢に「すごーい」って言われて引いたくせに、文壇バーってところに初めて連れて行ってもらったときに、僕の本を読んでくれていたんですよ、ママが。年配の女性なんだけど。「あ、読んでますよ、枡野さん! 『てのりくじら』[注]でしょ?」って。あの本のここが……って。そう言われたときは、「これはハマる!」って思っちゃって。ハマんなかったんですけど実際は。でも初対面でそんなこと、偶然に行ったような店で言われたら……

紫原 嬉しいですよね。

枡野 嬉しいです。

紫原 だから、本当のことだったら、自分でポジティブに受け入れられなくても嫌じゃない?

枡野 う~ん、だから、こんな矛盾していて、「自分の本を好きな人はダメ」とか言いながら「文壇バーはよかった」とか何なんだって……。いま、自分で思っちゃった。自分ツッコミで。

紫原 つまり枡野さん的には、2丁目は性的な対象ではないけど居心地はよかった……

枡野 いや、でも実際にモテたかったんですよ、2丁目で。だけど、あの、難しかったなぁ~。でも男性と旅行に行ったりはしましたよ。温泉に行ったりとか。

紫原 男性とデートするのと女性とデートするのって、どう違うんですか?

枡野 あっ、それは、どこまで言っていいかわからないけど……。僕が旅行までした相手は、小さい時に両親が離婚していて、お父さんに18歳のときに会いにいったら拒絶されたって人だったんですよ。それですっごく同情しちゃって。ちょっとグッときちゃったんですよね。だからそこが変なのが、親子的な愛情と性的なものを一致させようとしちゃってたから……。そうすると近親相姦みたいになっちゃうじゃないですか。

紫原 ああ……。

枡野 カッコいい人でしたよ。スポーツマンで。

紫原 でも少なからず、なんか、親との関係は恋愛に影響することはありますもんね。

枡野 そう。親子関係の問題って恋愛にすごく影響しますよね。それでいえば、紫原さんのご両親はどんな人だったんですか?

紫原 私の両親は絵に描いたような普通の夫婦で、ケンカしたとことかも一回も見たことなくって。だから男の人が浮気するとか、夫婦でケンカするとかが信じられなかったですね。男の人は一握りの人しか浮気しないと思っていました。

枡野 すごい、いい子ですね。

紫原 あと、うちの家訓が「政治家と芸能人にはなるな」で。目立っちゃいけない……。お父さんはずっと建設会社のサラリーマンで勤め上げたんですね。お母さんはたまに英語の先生をするような主婦で。だからもう、夫婦ゲンカとか自分がするようになるとは思ってもなかったんですよね。

枡野 そんな人が政治家を目指すような夫をね……。

紫原 ほんとに、真逆の相手を選んでしまって。でも、私の家族・一族は誰もこんなに頭のおかしい夫だとは見抜けなくって。「ほんといい人ね~、落ち着いてて」みたいな。(元夫は)すごく人から好かれる才能があるんですよ。

枡野 そっかあ。今だって好かれてますもんね?

紫原 嫌いになられないんです。

枡野 すごい才能じゃないですか、それは。

紫原 そうですねえ。まぁだから、あんなヘンな人はなかなかいないんで、次、あそこまでヘンな人には引っかからないと思うんですけどね。

[第6回の注釈]

■小田嶋隆
コラムニスト。1956年生まれ。著書に『超・反知性主義入門』『友だちリクエストがこない午後』などがある。最新著作は『ポエムに万歳!』。

■伏見憲明さんがやってる「ミックスバー」
ゲイ作家の草分け的存在でもある伏見憲明氏のゲイバー『A Day In The Life』。ミックスバーとは男性・女性双方が入店可能な店を指す、一種の新宿2丁目用語である。

■『てのりくじら 枡野浩一短歌集』
枡野浩一の商業出版としての初短歌集。歌集『ドレミふぁんくしょんドロップ』と2冊同時で発売された。短歌集が2冊同時発売は非常にまれで大いに話題となり、一躍枡野は新進歌人として注目を集めるようになった。

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