怒り、嫉妬、憎しみ、悲しみ……こうした感情の揺れ動きは、どうしようもないことだと思っていませんか? 振り回されてしまうのも、落ち込んでしまうのも、自分ではどうすることもできない。どうにかしようとしても、感情に蓋をして我慢・我慢の日々ではいつか限界が来てしまいそう。自分をコントロールすることが出来ればもっとラクに生きられるのだろうけど、できない……人間だもの……。
いいえ、その生きづらさは改善できるかもしれません。感情をコントロール・デザインする術は誰でも身につけることができると、数々の企業研修を手掛けるofficeテオーリア代表の柊りおんさんは言います。自身も人生のどん底で発想の転換をしたという柊さんに、負の感情とどう付き合っていけばいいのかを伺いました。
育児・介護・離婚裁判のストレスからキレていた日々
――柊さんは、企業・自治体・教育機関において、怒りのコントロールを中心としたエモーショナルマネジメントを伝えていらっしゃいます。学生時代から心理学を学ばれていたのですか。
柊 いえ、もともとは自分自身の怒りの感情をコントロールする必要があると感じて、学び始めたものでした。最初はそれが仕事に繋がるなんて全然想像もしていなかったんです。10年前、私は自身の離婚と父親の介護のために、仕事を辞め、0歳の娘を連れて地元の宮城県に戻りました。それまでは英会話スクールで働いていたのですが、育児と介護をしながらの会社勤めは難しいと思ったので、単発で通訳の仕事をしながら通訳学校に通って技術を磨く日々でした。
――育児、介護、仕事、勉強。怒涛の生活ですね。
柊 しかも別居から離婚成立までは何年もかかって、それらの日常と離婚裁判を同時並行でやっていたことが本当にしんどかった……。当時の私は、怒りと不安とで押し潰されそうになっていて、父親と娘に対して半端なく“キレて”いたんですよ。
――怒りをぶつける対象が、家族だったと。
柊 怒りって、一番身近な人に向かいやすいものなんですね。だから私自身、別居している元夫ではなく、傍にいる父親と娘に……しかも相手は介護が必要な人と赤ちゃんだし、「もう、私の手を煩わせてばっかり!」と、ちょっとしたことで爆発してしまっていた。導火線が短かったです。それに怒ること自体すごくエネルギーを使う行為なので、私もヘロヘロ、父と娘にとっても当然良くない。これはどうにかしないとおかしくなってしまうと思いました。だけどどうすれば良いのかわからない。その時、たまたま「アンガーマネジメント」というものがある、と知りました。簡単に言えば怒りをコントロールする心理テクニック。今の私に必要なのはコレだ!と直観し、藁にもすがる思いでアンガーマネジメントを勉強し始めたのが、最初のキッカケでした。
――本当にギリギリの状況まで追い詰められていらした。介護も育児も仕事も、避けられないことだったわけですもんね。お父様は現在は……?
柊 数年前に看取りました。母のほうは既に亡くなっていたので父の介護は私ひとりでやらざるを得ないという事情だったのです。今は、こうして東京で仕事をしながら、娘とふたりで生活しています。ただ、あそこまで追い詰められたことで現在があるので、それはそれで良かったのだと。自分しか頼る人がいなくて、自分でどうにかしなくちゃいけないっていう必死の覚悟があったから勉強して独立することもできましたし。もし私の両親が健在で、元夫との不和もなく円満な立場だったら、このお仕事をしていなかったでしょうから。いくら怒りやすい体質でも、勉強しようとまでは思っていなかったと思います。でも自分しか頼る人がいなかったので、自分でどうにかしなくちゃいけないっていう思いだったので。
――そもそもアンガーマネジメントとは。
柊 1970年代にアメリカで考えられ始めた心理トレーニングになります。日本に入ってきたのは2000年くらいですかね。一般レベルにまで認知が広まったのはここ1年くらいではないかと実感しています。
――感情、主に「怒り」は、テクニックでコントロールできる、ということですよね。
柊 テクニックというよりも、私の経験から言わせていただくと、本当に「慣れ」です。今まで使っていなかった脳の回路を、自然に使えるように訓練することで、誰でも出来ます。私がトレーニングを実践してもらった最少年齢は3歳、最年長は70歳くらいの方ですね。
――子供よりも年配の方のほうが、訓練が難しそうなイメージがあります。
柊 確かに、年配の方でご自身の価値観に強いこだわりをお持ちの方は多くいらっしゃいます。何十年という歳月をかけて積み重ねてきたご自身の価値観をそう簡単に変えたくないというのもあるし、何より、「自分は変われない」って思い込んでらっしゃるケースが多いのです。「どうせ変われない」という思い込みを持っていると、年齢を問わず実践が難しくなるのは当然のことです。自分で変えていこう、と思える方は、年齢に関係なく感情コントロールが上手になるまでそう時間はかかりません。