今回はプリンセスに対する男性の憧れについて書いてみたいと思います。プリンセスといえば女の子の夢……なので、「男性のプリンセス願望とは?」と思う方もいらっしゃるでしょう。映画の話を絡めながら、これについて分析していきます。
プリンセスの謎
ディズニープリンセスからダイアナ妃のような実在の女性まで、キラキラのドレスやティアラを身につけたプリンセス(英語では王女と王子妃の両方を指します)に憧れる女の子はたくさんいます。一方、プリンセス願望は階級や容姿に関する偏見を子どもに植え付けかねないという不安を抱いている保護者もいます。例えばペギー・オレンスタイン『プリンセス願望には危険がいっぱい』(日向やよい訳、東洋経済新報社、2012)はこうしたプリンセス願望を批判する本です。この本によると、ディズニーなどの企業は女の子のプリンセスへの憧れを刺激して利益を得ていますが、こうした風潮のせいで女の子は小さいうちから容姿の美しさ、セクシーさを重視する考えを内面化し、「魅力的でなければいけない」という強迫観念のせいで、自分がやりたいことを追求したり、適切な自尊心を持ったりすることが妨げられてしまいます。少女たちはひたすら可愛くなって王子様のような男性を待つ受動的な態度をよしとし、そのせいで人生においていろいろな困難に直面したり、場合によっては鬱や摂食障害などの病気につながったりすることもあるのです。
私は子どもの時からほとんどプリンセス願望がありませんでした。アニメ版『白雪姫』(Snow White and the Seven Dwarfs, 1937)を見た時は退屈だと思いましたし、好きなディズニー映画はキツネのアウトローが悪代官と戦う『ロビン・フッド』(Robin Hood, 1973)でした。大学に入ってから民話の授業で『シンデレラ』には複雑な歴史的背景があり、多くの芸術作品に影響を与えていることを知って、はじめてプリンセスに興味を持つようになりました。
私が長年不思議に思っているのは、なぜ男性はプリンセスがこんなに好きなんだろう? ということです。私が研究しているシェイクスピアはもちろん、中世ロマンスや絵画からオペラにいたるまで、プリンセス物語を好んで紡いだ男性芸術家は山ほどいます。前回書いたように私は最近まで英国出張していたのですが、調査先のグラスゴーのケルヴィングローヴ美術館でも、象徴派の画家が妖精のプリンセスを好んで描いたというパネル解説がありました。プリンセスにメロメロなのは実は女性よりもむしろ男性では……? という疑いが私の心にずっとあります。女性と異なり、自らがプリンセスになりたいと思う男性は少ないかもしれませんが、どうもプリンセスが大好きで結婚したいという願望を持つ男性はたくさんいるように見えます。こういうことをデータに基づいて分析するのはなかなか難しいのですが、「男性のプリンセス願望」を垣間見ることができそうな映画が3本あるので、見ていきたいと思います。