男性はお姫様がお好き?~映画に見る男性のプリンセス願望

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プリンセスとのキス

 もう1本、男性のプリンセス願望を語る上で外せない映画がマシュー・ヴォーン監督のスパイアクション『キングスマン』(Kingsman: The Secret Service, 2014)です。

 主人公のエグジー(タロン・エジャトン)はロンドンで仕事もなく行き詰り、グレ気味です。ところがひょんなことから秘密諜報組織キングスマンのエージェント候補にスカウトされ、テロリストであるヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)の陰謀に対抗すべく、師のハリー(コリン・ファース)の指導のもとで活躍します。

 この映画には強烈なプリンセスが登場します。それがスウェーデン王国の跡継ぎティルデ王女(ハンナ・アルストロム)です。ティルデは、優秀なリーダーのみを残して一般人を抹殺するという計画をヴァレンタインから持ちかけられますが、計画への参加をきっぱり断ったため、ヴァレンタインの秘密基地に監禁されてしまいます。

 終盤でエグジーはヴァレンタインの手下との戦闘中にティルデの監房のドアの前に隠れて身を守ろうとします。物音に気付いたティルデはドアの小窓から外にいるエグジーに話しかけ、出してくれと頼むのですが、エグジーは「キスしてくれる? 王女とのキスが夢で」と言います。エグジーはもともと結構柄が悪く、夢見がちなタイプには見えないのですが、実は童話のプリンセスに憧れるロマンティックな青年だったようです。普通ならばこれはずいぶん失礼な要求ですが、エグジーが訓練を受けたキングスマンはアーサー王の円卓を模した組織です。高貴な女性に忠誠を誓うかわりにキスを求めるのは中世の騎士ロマンス風ですし、劇的な救出で双方ハイテンションなので、無礼というよりむしろエグジーの受けた教育の成果と内に秘めた純情ぶりがのぞく可愛いお願いに見えます。

 ティルデはそんなエグジーの颯爽たる伊達男ぶりにやる気が出てしまったのか「キス以上のことをしてあげる」と露骨に性的誘いをかけます。ティルデを助け出すより先にヴァレンタインと対決しなければいけないエグジーが「世界を救う」とその場を離れようとしたところ、ティルデは世界を救えたならば‘asshole’つまり「ケツ穴」でやりましょうと、直接的な表現でアナルセックスを申し出て励まします。エグジーはヴァレンタインと対決し、牢獄に戻ってティルデのお尻といい雰囲気になったところで映画はおしまいです。

 これは男性のプリンセス願望が炸裂する展開です。ティルデはヴァレンタインの非人道的な計画に反対する頭とガッツを持ち合わせたお姫様で、国民に人気もあるようですし、ブロンドの美女です。そんな高貴な麗人を監禁から救出したところ、相手が自分から性欲満々で迫ってきてくれるというのは、プリンセスに対してあくまでも礼儀正しい騎士でありたいが同時にセックスもしたいという男性の相反する憧れが解決されかのたようなお話です。ティルデが受動的なプリンセスのステレオタイプを打ち破る開けっぴろげで面白いキャラなのであまり気付きませんが、貴婦人にいろいろな意味でお仕えしたいという男性の憧れが凝縮されていると思います。

 こうした男性のプリンセス願望は、既に民話やファンタジーの批評などでは指摘されていることです。カレッジ・オヴ・ニュー・ジャージーで英文学を教えているジョー・カーニィは民話「ろばの皮」について、「富と王族としての輝き」を持ったプリンセスを求める「男性の欲望」が物語のキーであることを解説しています(Jo Carney, Fairy Tale Queens: Representations of Early Modern Queenship, New York: Palgrave Macmillan, 2012, p. 125)。プリンセスとの結婚は男性に社会的地位、権力、富をもたらしてくれるものであり、さらに美貌までついてくるとあらば男性にとっては全ての欲望を満足させてくれる夢の花嫁です。ファンタジーということでは、テレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』などを見ている方にはこの要素はおなじみでしょう。

 男性も女性と同じくらい、あるいはそれ以上にプリンセスへの憧れを抱いているということは男性も女性も意識しておいていいかもしれないと思います。女の子があんなにプリンセスになりたがるのは、実は男性がリッチで可愛いキラキラのプリンセスと一緒になりたいという憧れを持っていて、その趣味に合わせて作った世界に乗せられているだけなのかもしれないとすら思えてきます。プリンセス願望は女の子だけのものではなく、男の子の間にも広がっているものなのです。

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