うーん、でも「婚前交渉」の規範が弱まることと恋愛嗜好が弱まりことにどんなつながりがあるのでしょうか? “セックスは結婚してから(=セックスは特別なもの)”という規範が弱まることによって、“特別な関係の人とセックスする(=恋愛)”に転じるまでは理解できるのですが……。
「セックスに特別な価値を見出しているのが90年代半ばの“恋愛ブーム”までの話なんですね。しかし、ブームが終わると、セックスは恋愛のステップに組み込まれていきますから、それ自体を目的化してわざわざやらなくてもいいものになっていくんです。欲望の発露だと思われがちなセックスですが、社会的文脈の中でのコミュニケーションの過程なんです。活発な時代もあれば、そうではない時代もあるのはむしろ当然なんですね」
「その上、今は“恋人がいる”ことを周囲に見せびらかすようなこともなくなりつつありますよね。90年代以降、会社などの集団に対する帰属意識が弱まりつつあります。結婚でも“トロフィー・ワイフ”といって、結婚した妻を見せびらかす男性っていたじゃないですか。それがなくなっている。男性からしてみたら、頑張って恋愛する理由がないんですよ。」
セックスはどうでもいいものになり、恋愛ブームが終わってからは、恋愛を頑張る理由もなくなった。つい「恋愛は当たり前にするもの」と思いがちですが、考えてみれば確かに必要がなければしなくてもいいものですね。恋愛しなくちゃ死ぬ、というものでもありません。
「連載で『東京タラレバ娘』(講談社)を取り上げた際に、『はじめてのセックスで「自分から」押し倒してパンツを脱がせるという展開は、男性だと4割程度が経験するのに対して女性はほぼない』と紹介しました。つまりセックスの主導権は男性がとる方が多い。視点を変えれば、女性は自ら「パンツを脱ぐ」のではなく、「男性にパンツを脱がせる」という戦略をとることのほうが合理的、ということですよね。つまり……」
異性愛を前提に考えれば、恋愛を頑張らなくなった男性は主導権をとろうとすることもないでしょうから、恋愛に発展する可能性も低くなる、と。
「そういうことです。恋愛って仕組みは、たまたまバブル期にマッチしてブームになっただけで、日本にはあんまり根付いてないんじゃないですかね。古くから“情”とか“萌え”はあっても、恋愛という特殊なコミュニケーションのスタイルは活発じゃなかったのだと思います。こういう話を踏まえずにデータだけ見て『男が軟弱になった』というのは早計だと思います」