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「ハゲたらモテない」なんてウソ!? 身体性の希薄な男性が、ハゲだけは異様に恐れる理由

【この記事のキーワード】

外見差別を隠蔽し、ハゲ男性を強者と弱者に二分する“ポジハゲ論”

「ハゲの不利益」を想像して怖がっているんですね

ポジハゲ代表・斉藤さんは確かにモテるようですが……

須長 ポジハゲ論というのは、私が『ハゲを生きる』を出版した1999年当時からハゲをめぐる言説において支配的な考え方でした。この状況は2016年の現在に至るまで更新されていません。

清田 最近だとお笑いコンビ「トレンディエンジェル」のボケ・斎藤司が大人気で、「なぜかJKにモテモテ!“薄毛=モテない”方程式を覆すトレエン斎藤さん人気」なんて記事も話題になっていました。これなんて典型的なポジハゲ論だと感じます。

須長 そうですね。「ハゲはハゲそのものでなく、それを気にすることがモテない要因だ」「そこから脱却するには、気にしないこと、ポジティブになることが第一歩だ」という論法がポジハゲ論の特徴であり、この社会に根深く浸透しています。

清田 先生は著書でポジハゲ論の問題点を指摘されていましたね。

須長 ポイントは2つあって、ひとつは先ほど言った「論点のスライドによる差別の正当化」です。「気にすることがダメなのだ」という論理展開にすると、ハゲは“本人の努力次第で克服できる問題”となりますよね。こうやって自意識の問題にスライドすることで、「ウジウジ気にするのが良くないのだ」という言説に置き換えることができ、差別意識を持たずにハゲを攻撃することが可能になるわけです。

清田 こういう論法を取られちゃうと、相手に悪気がない分、言われた方も違和感や苛立ちを表明しづらくなりますよね。無意識の暴力という感じがして恐ろしい……。

須長 もうひとつは、男性を「ハゲていても堂々と振る舞える人(=強者)」と「それができない人(=弱者)」に仕分けしてしまうという問題です。全員がトレンディエンジェルの斎藤さんみたいになれたらいいですが、外見のコンプレックスを逆に強みとして生かしたり、仕事や趣味など別領域で獲得した自信によって乗り越えたりできる人はごく一部でしょう。もっとも、斎藤さんだって悩んでないとは限りませんよね。結果的に乗り越えられたとしても、そのための負担や忍耐を当人に強いること自体がポジハゲ論の問題点だと思います。

清田 強者と弱者に二分されてしまうと、ただでさえ気に病んでいる人に対し、「メンタルが弱い」「もっと努力しろ」といったまなざしが向けられかねないですもんね……。

須長 そうなんですよ。それゆえ、ポジハゲ論はハゲ問題を乗り越えるための解決策にはならないというのが私の考えです。

「ハゲたら女性にモテない」という“フィクション”の視線

清田 『ハゲを生きる』は、ハゲ経験を持つ15人の男性に対するインタビューをもとに構成されていますが、ハゲに対する男性の心情を大きく3つに分類されていました。

須長 「老化への寂しさ」「早すぎる抜け毛(若ハゲ)への動揺」「女性にモテなくなることへの不安」という3つですね。

清田 男性が老いや衰え、あるいは須長先生の言う“不可逆性”や“隠蔽困難性”をここまでモロに体感する機会って、ハゲ以外にあまりないですもんね。女性たちの恋バナを聞いていると、現実と向き合わず、チャレンジを避け、具体的な決断を下さないことで見栄やプライドを保とうとする男性の話がよく出てきます。これはAV監督の二村ヒトシさんが「インチキ自己肯定」という言葉で指摘している問題でもあるんですが、ハゲというのはそれができないからこそ、男性をこんなにも震え上がらせるのかもしれませんね。

須長 それともうひとつ、「女性にモテなくなることへの不安」も根深い問題ですよね。私が行ったインタビュー調査でも、男性たちは「ハゲると女性にモテない」「ハゲると女性に対して恥ずかしい」という強固な意識を持っていました。しかし実際には、ハゲを理由に女性にフラれたとか、女性から直接ネガティブなことを言われたという人はいなかった。よく考えると、これって不思議なことだと思うんですよ。

清田 どういうことですか?

須長 世の中には、確かにハゲた男性が苦手という女性だっているとは思います。でも、それが女性の圧倒的多数派を占めているというエビデンスはどこにもありません。女性から直接差別を受けたという体験に根ざしているわけでもないし、女性がハゲを理由に男性を嫌う実証的な裏付けもない。つまり、ここで想定されている女性の視線というのは“フィクション”なんですよ。

清田 なるほど……。僕の中にも「ハゲたら女性にモテない」という恐怖はありますが、言われてみれば確かに、その女性というのは抽象的な存在を想定しているような気がします。事実、僕は中高6年間男子校に通っていて、ほとんどまともに女子と会話したことがなかったにも関わらず、「ハゲたらモテない」と強く思い込んでいました。

須長 フィクションというのは、要するに「根拠が問われずに存在し続ける」ということです。だから仮に、誰か具体的な女性が「私はハゲが好き」と言ったとしても、「ハゲたら女性にモテない」という思い込みが覆ることはない。これはなかなか厄介なことだと思います。

清田 ホントそうですね。「彼氏のハゲ頭を触ったらキレられた」という女性の話を聞いたことがありますが、恋人ができたところでハゲを気に病むマインドがなくなるわけではないというのは、よく考えたら不思議な話ですよね。

須長 実は、そのフィクションの視線というのは“男性によって”生み出され、男性同士のやり取りの中で利用されているものなんですよ。

清田 それが著書の中で指摘されていた「男性同士のからかい」や「人格テスト」というものですね。後編ではそのあたりのお話についてじっくりうかがえたらと思います。

<後編へ続く>

■今回の先生■

須長史生(すなが・ふみお)
1966年東京都生まれ。昭和大学准教授。専門はジェンダー論。1999年、東京都立大学社会科学研究科後期博士課程退学。著書に『ハゲを生きる─外見と男らしさの社会学』(勁草書房)がある。

『ハゲを生きる─外見と男らしさの社会学』(勁草書房)

『ハゲを生きる─外見と男らしさの社会学』(勁草書房)

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