「思春期になると、だれもが異性に惹かれる。二次性徴が来るのは素晴らしいことで、気になる異性がいることは自然なことだ」と書かれた小中学校の教科書を読んで、ショックを受ける子どもがいる。当然のように語られる「異性愛」や「心と体における性のあり方」から外れる子どもたちにとっては、「その他に何も語られない」ということが重たいメッセ―ジになるからだ。
ようするに、これらの沈黙は「同性を好きになることは、やはり、キモいと笑われたり、どこかおかしかったり、そもそも公の場所でまっとうに扱われるようなトピックではないのだ」という価値観を伝えていることになる。すでに同性への恋愛感情を抱いていたり、周りの友達とのちがいに戸惑っていたり、ましてやクラスで「ホモ」「レズ」なとど揶揄されている子どもたちにとっては、このような性教育の時間は、まさに黒歴史の一幕と化してしまう。
中学二年生のこの手の授業で、アタマの中が真っ白になったと語るのは、友人の室井舞花だ。すでに大好きな女子生徒がいて、「レズ」と揶揄されていた彼女にとって「思春期になると誰もが異性に惹かれます」という教科書の記述は、心を打ちのめすのに十分だった。なにしろ教科書が言っているのだから、その説得力たるや。「自分の恋心は、まちがっているんだ。同性を好きになるのは間違っているんだ」。そう思った彼女は、異性を好きになろうと努力をしては報われない青春を過ごした。同性以外に人を好きになれないことがわかると、自分は人を愛してはいけない人間なのだろうかと思ったともいう。
そんな彼女が呼びかけて始めたオンラインの署名キャンペーン「クラスに必ず1人いる子のこと、知ってますか?〜セクシュアル・マイノリティの子どもたちを傷つける教科書の訂正を求めます〜」は、2016年9月28日現在で2万人を超える賛同を得ている。LGBTなどの多様な性のあり方を、そのまま伝えるような教科書でない限りは、マイノリティとされる子どもたちにとっては黒歴史が繰り返されるし、マジョリティと呼ばれる側の人間にとっても「お互いのちがい」をうまく扱うための学習機会が奪われてしまう。