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夫以外に好きな人ができた女と、離婚をひきずる男の邂逅/枡野浩一×植本一子【1】

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「夫は感情が『無』なんです」(植本)

枡野 それでね、この(『かなわない』についてくる)フリーペーパー『かなわない的読本』[注]は、どなたが作られたんですか?

植本 これは出版社の人が作ってくれたんですけど、言いだしっぺは『BOOKS ルーエ』[注]っていう吉祥寺の書店の花本さんです。

枡野 ああ、花本さん……。

植本 そう! 名物書店員の花本さんが「フェアをやろう!」みたいに言ってくれて。それで(推薦する本を)選んだのと、コメントをいろんな人からもらって、作りました。

枡野 花本さんは(『BOOKS ルーエ』吉祥寺店の)2階に『枡野書店コーナー』[注]というのを作ってくれていて、すごくお世話になってるんです。

植本 あっ、そうですよね! 見ました見ました!

枡野 それでこれ(『かなわない的読本』)読んだところ、ますます別れた妻を思い出すんですね。

植本 あははは!

枡野 特に『西荻夫婦』という漫画が出てきて、やまだないとさん[注]の漫画なんですけど、(結婚していた)当時、やまだないとさんとは家族ぐるみで交流があったので、私たち夫婦と子どもが遊びにいったことがあるんですよ、ないとさん家に。西荻窪の。たぶんそれを漫画に描かれたんですよ。

植本 うんうん、出てきますよね。

枡野 ものすごく美化された私たちが。良き家族として。

植本 はい。

枡野 主人公たちは結婚じゃないところでやっていて、子どもとかいなくて、(当時の枡野の家族が、主人公たちにとって)憧れの家庭として描かれているんです。

植本 うん……うん。

枡野 でね、そのときのね、そのときの(『西荻夫婦』で描かれた)ひとコマを妻が拡大コピーしてね、額にいれてね、飾っていたんですよ……。いま思うと哀しさを感じますね。なんだろう、そこにすがらないといけないくらい(家族生活が)ツラかったのかもしれないじゃないですか。

植本 奥さんがですか? う~ん、どうなんでしょうね。

枡野 僕はいまそう思っちゃってるんですけど。当時は無邪気に飾っていて、別居し始めたときに週末婚とかしてたんですけど、(もうそのころは額を)僕が預かってたんですよ。ただ僕、だんだんと週末婚からも追い出されたりして、(家族が住む家から)引っ越さなきゃならなくなったときに、額だけは自分で運ばなきゃと思って、引っ越し屋さんに頼まなかったんですね。

植本 大きかったんですか?

枡野 すごくでっかい額で、ガラスの張ってあるやつで。それだけを抱えて自転車で運ぼうと思ったら、割っちゃったんですよ。

植本 ああ~。

枡野 それも、ピキピキピキピキ~~って。映画の美術さんが(監督に)「かっこよく割れよ!」と言われて頑張って、一晩かけて割ったくらい、「ほら監督、見てください!」「おお、いいな!」っていうくらいの、割れ方だったんですよ。

植本 うん(笑)。

枡野 それで、そのころはまだiPhoneとかない時代ですけど、「写真撮ろうかな」と思っちゃったんですよ。このかっこいい割れ方。家庭がダメになった今。

植本 あっははは!

枡野 でも「こんなこと考えてるから離婚を言われちゃうんだな」と、すごく反省して。

植本 うんうん。

枡野 やめた……っていう。

会場 (笑)

植本 それ、手紙(往復書簡)で書かれてたじゃないですか。その書かれてた中でそこが一番共感しました。

枡野 そうですか。

植本 私は撮ると思います。

枡野 そうですよね。

植本 そうそうそう。すべてメモるのと同じ感じ、一緒だなと思って。なんかネタにしちゃいますよね。

枡野 いま思えば……撮っとけばよかったですね。

植本 そうですよ!

枡野 そうしたら、もう少し離婚がこじれなかったかもしれない。

植本 ふふ、そうなんですか?

枡野 わかんない。だけどそういうことを忘れてたんですよ僕。だから『かなわない』という本はそういう忘れていたことをいちいち思い出すための装置としてとても優秀で、(だから逆に)ほんとに読むのが正直つらかったんです最初。

植本 ふ~~ん。

枡野 でも興味あって読みはじめたし……。あの、この本(『かなわない』)をライバルだと思って作った本なんです、これ(『愛のことはもう仕方ない』)は。定価も一緒ですし。たたずまいがね。こういうハードカバーで。書いてあることは日常的なことなのに。日記本といえば日記本じゃないですか。にもかかわらず文芸書みたいで。(僕の本も)そんな感じにしたかったので。

植本 はい、うんうんうん。

枡野 それで後半まで読むと、これはとても良い本で。別れた奥さんも読んでくれたらいいのにって優しい気持ちになったけど……。

植本 うん。

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