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夫以外に好きな人ができた女と、離婚をひきずる男の邂逅/枡野浩一×植本一子【1】

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植本 なんか奥さん、めちゃくちゃ強いですよね、やっぱり。枡野さんの元奥さん。はじまりも強引で……。

枡野 経済力もありましたしね。

植本 そこは大きいですよね。

枡野 あとカラダ目当てだったんですね、むこうが。

植本 ………。

「『この人と結婚するんだ』という直感にまかせただけです」(植本)

枡野 これ(『ホームシック~』)とか読むと(植本さんとECDさんの)なれそめが書いてあるじゃないですか。(植本さんが)ある駅でわざわざ電車を降りて(ECDさんに)手をふったとか……。

植本 ありましたね、そんなこともね。

枡野 それはやっぱり好きだったから?

植本 いやぁ~そのとき……まぁファンではあったんですよね。純粋にファンではいたので。なんか「あ、いる」と思って。そして降りて(ECDさんに会って)また乗る、みたいな。

枡野 そのときは、「私がこんなに好きなのにわかってくれないのかな」みたいな気持ちだったんですか?

植本 やややっ!

枡野 まだそこまでじゃなかった。

植本 うん!

枡野 ただただ衝動にまかせてたら電車降りちゃってたんですか?

植本 あはっ(笑)。そうですね。でもそのときはまだ結婚とかは頭になかったと思いますよ。

枡野 えっ、じゃあいつ「結婚かも」と思ったんですか?

植本 結婚かもと思ったのはつきあいはじめてすぐ……。「結婚するならこの人だな」っていうなんとなく直感が――

枡野 あったんですか?

植本 ありましたね。

枡野 すっごく年上なのに?

植本 すっごく年上だけど、ありましたよ。なんでも許してくれそう……みたいなところなのかな。

枡野 本読むと「つきあいはじめのころ(ECDさんが)臭かった」とか書いてあるじゃないですか。

植本 あっはははは! 書いてありますか?

枡野 書いてあった書いてあった!

植本 あ~加齢臭的な?

枡野 だから彼(ECDさん)のほうが、以前は臭かったけど臭くなくなったねと言われた、みたいなことを嬉しそうに書いていて(『ホームシック〜』P.57)。衝撃だったんですよ。

植本 あ~はいはいはい(笑)。ありましたね、そうそうそう。

枡野 臭いけど、それでもこの人と結婚するんだって思ったの?

植本 ま、最初は盛り上がってますからね。でもとにかく「この人と結婚するんだ」っていう直感にまかせただけです。

枡野 直感かあ~。

植本 それはあれじゃないですか、枡野さんが(元奥さんから)カラダを求められたのと同じじゃないですか?

枡野 直感って……どういうことなんだろう? あの、直感力ってもう才能ですよね?

植本 才能のひとつだと思います。直感。そして運。

枡野 ああ……。別れた奥さんがねえ、(漫画の)本のタイトルとかすっごい適当につけるの!

植本 へえ~~!

枡野 なんか飲んでたジュースがクールパインだったからね、『クールパイン』[注]って本出したことがあるんですよ。

植本 ありますね。

枡野 僕はショックで。(僕は)自分のタイトルとかすごい凝るのに、そのいい加減さは何?……っていうね。

植本 言葉の人ですもんね、枡野さんは。

枡野 でもそういうのが直感なんだろうか?

植本 うーん……。『さよならみどりちゃん』[注]?

枡野 『さよならみどりちゃん』……。それもね、よくわかんないけど適当な理由で(元奥さんは漫画タイトルを)つけてるの。みどりちゃんって友達がいて。とにかく適当なのね。

植本 へえ~~。

枡野 あと本に誤植があっても直さないのね。「ここ間違えてるでしょ、でも誰も気づかないんだよね」って言ってた。

植本 あははは! 面白い奥さん……ですよね?

枡野 こうして話してると面白い人じゃないですか。ひとごとだとね。

植本 (笑)

枡野 そう……。

植本 えっ、元奥さんと私、似てますか?

枡野 う~んとねえ、う~~ん、まだ初対面だから軽々しく言えませんけど……。でもなんか、電車のなれそめとかのシーンを読むと、「自分たちもこんなだったかもしれない」と思いました。

植本 うんうんうん。なんか、奪りにいくタイプですよね、元奥さんはね、きっと。

枡野 だってむこうから呼ばれて嬉しそうに僕が寄っていったから……。そして、言われるがままに……離婚しちゃったからねえ……。

[第1回目の注釈]

■紫原明子
エッセイスト。1982年生れ。高校卒業後、音楽学校在学中に起業家の家入一真氏と結婚。のちに離婚し、現在は2児を育てるシングルマザー。デビューエッセイ『家族無計画』。
(枡野浩一とは『心から愛を信じていたなんて』対談シリーズ第1回目で対談)

■家入一真
企業家・実業家・政治家・作家。2014年には東京都知事選挙に立候補。著書に『こんな僕でも社長になれた』『我が逃走』『絶望手帳』など。(『絶望手帳』には枡野浩一の短歌 <手荷物の重さを命綱にして通過電車を見送っている> など二首が引用されている)

■『愛のことはもう仕方ない』
歌人・枡野浩一の最新小説。サイゾー・刊。宣伝コピーは「嘘つきな男たちへ。正直者を受け入れられない女たちへ」。帯文は「人があなたを理解してくれないなんて、当然ではないですか! ――中村うさぎ」。

■手紙
<枡野浩一×植本一子、往復書簡:愛のことはもう、かなわない?>

■『あれたべたい』
枡野浩一・文/目黒雅也・画による絵本。あかね書房・刊。この絵本刊行を機に枡野は現在「ババロア研究家」を自称している。

■『かなわない』
写真家・植本一子の著作。タバブックス・刊。<2014年に著者が自費出版した同名冊子を中心に、『働けECD〜わたしの育児混沌記』後5年間の日記と散文で構成。震災直後の不安を抱きながらの生活、育児に対する葛藤、世間的な常識のなかでの生きづらさ、新しい恋愛。ありのままに、淡々と書き続けられた日々は圧倒的な筆致で読む者の心を打つ。稀有な才能を持つ書き手の注目作です>(出版社からのコメントより)

■『かなわない的読本』
写真家の石川直樹、書店員の花本武など計4名の『かなわない』推薦コメント、および『植本一子が選ぶ22冊!』で構成されている。両面に文字があるA4の白い紙を4つに折ったリーフレット。

■『BOOKS ルーエ』
吉祥寺在住時代から枡野がよく通っている、吉祥寺の名物書店。枡野は『結婚失格』(講談社)単行本刊行時のサイン会のため、店の前の道路で大声で呼び込みをしたこともある。「当時は加藤あいさんとテレビCMに出た直後で、本の中身を知らない通りすがりの女子中学生が買ってくれたりして申しわけなかった」と枡野は語る。

■『枡野書店コーナー』
枡野が家具作家の寺山宗男に依頼してつくってもらった、タイヤのついた高級家具「オカモチ本棚」が置いてあるコーナー。本棚に並べられているのは枡野の著作のほか、枡野セレクトのおすすめ本。オカモチ本棚は現在二台あり、もう一台は阿佐ヶ谷の「枡野書店」に置かれている。

■やまだないと
漫画家。1965年生まれ。代表作に『キッス』『西荻夫婦』、映画化もされた『L’amant ラマン』など。

■ECD
ラッパー・作家。1960年生まれ。日本語ラップの草分け存在。写真家・植本一子の夫。

■『ホームシック生活(2~3人分)』
ECDの著作。フィルムアート社。<アル中、閉鎖病棟入院といった”失点”な日々を乗り越え、新進カメラマン・植本一子との同棲、思いがけぬ妊娠そして出産と、結婚へ至る怒濤の人生の転換を綴った、生活密着型のリアルライフ文学>(amazon内容紹介より)

■『失点・イン・ザ・パーク』
ECDの著作。太田出版・刊行。<日本語ラップの草分けのひとりにして、伝説的イベント「さんピンCAMP」をプロデュース、大成功させた著者が、アル中、入院、恋人との別離、レコード会社からの解雇、そしてラッパーとしての活動を止める決心をしハローワークに通った“失点”の日々を赤裸々に綴った半自伝的小説>(amazon内容紹介より)

■坪内祐三
評論家・エッセイスト。1958年生まれ。代表作に『ストリートワイズ』、『古くさいぞ私は』『文庫本を狙え』など。

■『あるきかたがただしくない』
枡野浩一の著作。朝日新聞社・刊。<男が離婚を語ってはいけませんか?」「週刊朝日」連載中から賛否両論の嵐…。“離婚後くよくよ立ち直りエッセイ”>(amazon内容紹介より)

■『クールパイン』
漫画家・南Q太の作品。

■『さよならみどりちゃん』
漫画家・南Q太の初の長編漫画作品。映画化もされている。

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