
左『愛のことはもう仕方ない』/右『かなわない』
植本一子×枡野浩一
~かなわないことって本当に仕方ないのかな対談~
男性/父親からの離婚体験の心の痛みを書きつづけ、小説『愛のことはもう仕方ない』を発売した歌人・枡野浩一さんと、女性/母親として子育ての葛藤や不倫経験を赤裸々に表現したエッセイ『かなわない』が大きな反響を呼んでいる写真家・植本一子さん。こんなふたりが結婚・離婚・不倫・セックスレス、そして新たな夫婦のカタチまで、徹底的に語り合います。
勃起不全症候群(インポテンツ)であることを公言している、枡野浩一さん。旦那さんとのセックスレスが不倫のきっかけだったかもしれないという、植本一子さん。男女の、そして夫婦におけるデリケートゾーンをあっさり跳び越えて、本質にずんずんずかずか踏み込んでいくふたり。植本一子さんが話題作『かなわない』には書かなかったこととは? 「夫の不倫もOKです!」という真意は? 枡野さん夫婦の離婚に影響を与えた、あの評論家とは……?
(構成/藤井良樹)
「枡野さんっていつからインポなんですか?」(植本)
植本 枡野さんってセックス弱いんですか? いつからインポなんですか?
枡野 インポなのはねえ、ちっちゃいときから。
会場 (爆笑)
枡野 ちっちゃいときからじゃないか(笑)。でも高校生のときとかに男がよく言うのはね、「かわいい子を見るだけで勃ってしまった」とか言うの。
植本 うんうん。
枡野 自分にはそんな時期はなかったし、食べても食べても腹が減る時期もなかったし、動きまわって時計が壊れる時期もなかったんですよ。
植本 へ!?
枡野 あのね、男子校の友達に聞くと、みんな(高校時代は)動きまくって壊れた時計が何本目だとかいう人が多くて。あと眼鏡が壊れるとか。自分にはなかったなぁ。
植本 じゃあ強くないというか、弱めなんですね。強い弱いで言っていいかわからないですけど。
枡野 比較できないじゃないですか。僕、『ショートソング』[注]という小説でめいっぱいエッチなこと書いたつもりだったんですけど、意外とみんな平気だったみたいだから。小学生も読んでるし。僕の精一杯はみんなにとってささやかなものなのかなと思っています。
植本 読んでみます。でもたぶんそこ、石田さんと似てるんです。
枡野 そうなんですか?
植本 うん。これ(『失点・イン・ザ・パーク』)に書いてありますけど、石田さんは37歳で童貞を捨てていて。
枡野 えっ、遅いですね!?
植本 知らないですか?
枡野 それはね、ちょっと聞きました。でもそれ、本当なのかなって。
植本 ほ……んとだと思います。あの人、嘘つかない――。
枡野 童貞詐欺じゃなくて?
植本 あはは。でも童貞ぶって、いいことあります?
枡野 や、でも、「おれ、ラッパーだけど童貞だよ!?」って、逆張り?
植本 経験あるフリ、してたみたいです。
枡野 あ、そう。
植本 そう、初めてのコのとき。
枡野 じゃあ童貞っぽいですね。
植本 そう。すごい年下のコとばっかつきあってて、私が3人目なんですけど。
枡野 3人目だってわかってるんですね(笑)。
植本 本に書いてありますよ! みんな書いてある。もう(彼女に)求められるままにとか。むさぼられていたとか。
枡野 わりと受け身的な感じなんですね。
植本 そう! コ××ン使ってとか! あはは! 書いてあるんですよ!
枡野 でもコ××ン使うんですね……。そこは僕と違うなあ。
植本 そのときはね、そのときは! いまはもうそんな、やってないと思いますよ。私はやってもいないんでわかんないですけど。
枡野 ああ、でもミュージシャンぽいですねえ。コ××ン使ったり……あとアル中だったりもしてたんでしょ(ECDさんは)。
植本 バブってたときなんですよ、ほんとに。
枡野 しかも事務所にいるだけ(レコード会社からのアーティスト助成金)で月40万円(もらえて)。なんてうらやましい……。
植本 そうそう。そこからの転落の話なんですけど、『失点・イン・ザ・パーク』は。
枡野 でも偉いですよね。アルコール中毒だったのが、底をついたのか、全然飲まなくなったわけですよね?
植本 そうです!
枡野 僕みたいにもともと飲めなかったタイプと比較したら、アル中だったけど飲めなくなったっていうほうが何倍カッコいいかって感じですよねえ。
植本 そうですか?
枡野 僕もそこ読んでいて、嘘つこうかと思いましたもん。「僕も元アル中でいま飲めないんですよ」って。「離婚のときに飲みすぎちゃったんですよ」って言ったらみんな信じそうじゃないですか。でも僕、嘘はきらいなので、できないんです。
植本 じゃ、じゃあできないですよね(笑)。
枡野 すみません、余計な話しちゃって。
植本 あはは。
「やっぱりそこが不満だったから不倫しちゃったの?」(枡野)
枡野 この、こちらの本(植本一子初エッセイ本『働けECD わたしの育児混沌期』[注])の表紙(写真)の石田さんは股間も写っていて……。
植本 こっ、股間!?(笑) あの、今回の(対談の)テーマ、『性のコミュニケーション』なんですよね?(笑)。忘れてました。どうしよう。いえ、まだ全然話せるんですけど(笑)。
枡野 はい。
植本 それでだから、「離婚したい」って私が言ったときに(石田さんからは)「離婚しない」って言われて。それで私は好きな人がいるので(石田さんとはセックスを)「私はもうできませんよ」みたいなことを言ったんですよ。それでだいぶ楽になったことはありました。
枡野 え、その「好きな人」とは、両想いにはなったんでしょうけど、どっちが先に好きになったんですか? どちらからアプローチを……。
植本 あ、私です、私。
枡野 そうだったんですか。
植本 そのへんは(『かなわない』に)書いてないですもんね。ごっそり書いてないんです。
枡野 少女漫画のように書いてないんですね。
植本 あっははは! でもまぁこれからはちょこちょこ……小出しに……。
枡野 書くことになるんですか?
植本 そんなにがっつりは書かないですけど。
枡野 相手の方がいることですもんね。
植本 そうそうそう。そうだし……。
枡野 (相手の方はこの会場に)今日いらっしゃったりするんですか?
植本 いない……と思います。 いないです……いないです!(笑)
枡野 はい(笑)。